はじめに
脳の神経細胞には、電気信号をやりとりして、物を考えたり、手足を動かしたりするニューロンと呼ばれる神経細胞の他に、「グリア細胞」と呼ばれる細胞があります。
チンパンジーやゴリラの脳の大きさに比べ、ヒトの脳はかなり大きいのですが、実を言うとニューロンの数にはそれほどの差がないのです。
それに対してヒトの脳の「グリア細胞」の数は、チンパンジーやゴリラの脳に比べて、とても多いのです。
これまで「グリア細胞」が、どのような働きをするのかは、よく分かっていませんでした。
しかし21世紀に入って、「グリア細胞」の研究が進んでくると、その働きについても少しづつ解明されてきています。
ヒトの「グリア細胞」には、① アストロサイト ② オリゴデンドロサイト ③ ミクログリア などの種類があります。
特に『ミクログリア』には、運動学習に関連した神経細胞の、シナプスの働きを変える作用があると言われています。
今回はまだあまり一般的に理解されていない、「グリア細胞」の中の、『ミクログリア』の働きについて、ニューロリハビリテーションの視点から、解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
『ミクログリア』とは!
ミクログリアは中枢神経系(脳の神経)の中で、唯一の免疫細胞であると言われています。
ミクログリアは、脳腫瘍などの疾患で活性化すると、その細胞の形が大きく変化します。
正常時のミクログリアは、無数に分岐した突起を持つ細胞体の小さな「静止型ミクログリア」ですが、病態時には活性化し、突起が短く大きな細胞体の「活性型ミクログリア」に変化します。
活性化したミクログリアは、様々な「神経栄養因子」や「サイトカイン」を放出することで、神経細胞を保護したり、破壊したりする働きを持っています。
ミクログリアの機能には以下のようなものがあります!
⑴ 神経細胞死
⑵ シナプス除去
⑶ 神経新生
⑷ 神経細胞の監視
ではこれらのミクログリアの機能がどのように作用するのか見ていきましょう!
神経細胞数の制御
ミクログリアが、小脳でスーパーオキシドアニオンという物質を放出し、神経細胞のプログラム細胞死を誘導していることが分かっています。
このプログラム細胞死は、発達期の神経回路を構築する過程で、とても重要な現象なのですが、それをミクログリアがコントロールしている可能性が考えられています。
また刺激の多い環境下で活発に活動することで、脳の記憶を司る「海馬」でのミクログリアの活性が高まり、海馬での神経新生が増えることで、学習効果を高めたり、記憶の保持を促したりすることが分かっています。
また活性型ミクログリアが、神経新生を制御し、細胞死とその細胞を貪食して破壊することで、「神経回路編成」や「神経可塑性」に関与する可能性が示唆されているのです。
神経シナプスに対するミクログリアの作用
軸索損傷を引き起こした神経細胞の神経核に、活性型ミクログリアが集まることが分かっています。
また脳内に障害が起きると、ミクログリアの突起が、その障害部位に向かって伸びていくことも分かっています。
この時にミクログリアの突起は、神経細胞のシナプスに接触しているのです。
脳卒中による脳虚血のペナンブラ領域では、ミクログリアと神経シナプスの接触時間が、とても長くなることが知られています。
そしてミクログリアの突起が触れた後に、神経シナプスが消失していきます。
どうもミクログリアの突起が接触することで、その神経細胞のシナプスの除去が促されているようなのです。
このミクログリアによるシナプスの除去は、神経活動依存的に働いていて、神経活動の活発なシナプスが残り、神経活動の弱いシナプスが除去されることが分かっています。
つまり運動学習の過程で起こる、シナプス構造の可塑的変化は、ミクログリアによるシナプス除去の過程によってコントロールされているようなのです。
またミクログリアは、シナプスの除去による、シナプス数のコントロールだけでなく、シナプスの活動を制御することも分かってきています。
つまりミクログリアは以下のような働きで神経可塑性をコントロールしています
⑴ 神経細胞の数をコントロール
⑵ シナプスの数をコントロール
⑶ シナプスの活動をコントロール
これらのミクログリアの活動は、新生児の脳の発達過程でも、その神経回路の構成に関与していますし、大人の脳においても、運動学習などによる神経可塑性に関与しているのです。
しかし反対に、脳梗塞やアルツハイマーなどの病気においては、活性型ミクログリアが、様々なサイトカインを放出することで、病態が悪化することも知られています。
まとめ
これまで多くの謎があった「運動学習」による神経可塑性(神経回路の変化)に、ミクログリアが深く関与していることが分かってきました。
これらの神経可塑性にかかるミクログリアの働きには、⑴ 神経細胞の数をコントロール ⑵ シナプスの数をコントロール ⑶ シナプスの活動をコントロール などが関与しています。
しかしミクログリアの働きに関しては、まだまだ謎が多く、わからないことがたくさん残っています。
またミクログリアの障害による、パーキンソン病やALSの病態についても、少しずつ解明されてきています。
いずれにせよ脳卒中ニューロリハビリテーションの運動学習の効率を高めるために、ミクログリアの理解は、今後はとても重要なテーマになると思われます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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