あなたはテロメアを知っていますか?
テロメアというのは、私たちの遺伝子情報を記録している「染色体」の紐のような構造の、いちばん先端にある塩基配列です。
塩基配列といっても良く分からないかもしれません。
靴紐の先端の、靴紐がほぐれない様にまとめているビニールのカバーがありますよね。
テロメアとは、まああんな物です。
染色体がバラバラにほぐれて、遺伝子情報が狂ってしまわない様に、先端で固定して遺伝子を安定させている。
テロメアとはそんな物なのです。
このテロメアは、その染色体が、細胞分裂を繰り返す旅に、短くなって行きます。
そしてテロメアが、短くなりすぎると、その細胞は分裂できなくなり、やがて死んでいきます。
そうです、あなたももう気がつきましたね。
恐ろしいことに、このテロメアの長さは、私たちの寿命を決めているのです。
よく、ある程度の年齢になってから、同窓会などに出席すると、これが同じ年齢かと思うくらい、老けたヒトと若々しいヒトがいますよね。
10代の頃は、みんな同じ様に若かったのに、40代くらいになると、本当に差が出ますよね。
そうなんです。
ぶっちゃけ同窓会で老けている人は、このテロメアが短い人なんです。
そしてこういう人は、50歳を超えた辺りから、徐々に病気になりがちになり、早くお迎えが来ると言うわけです。
怖いですね~! 恐ろしいですね~!
しかし心配することはありません。
テロメアにはテロメアーゼという酵素が働いて、このテロメアを修復して、再び長くしてくれる場合があるのです。
テロメアーゼがよく働く様に、心と身体のコンディションを整えておけば良いのです。
ではどういった事がテロメアを長くしたり、短くしたりするのでしょう?
あなたは困難にどの様に対応しますか?
ここで少しストレスの話をしたいと思います。
あなたは何か困難にぶち当たったときに、どんな風にそれに対処しますか?
たとえば、勤めていた会社が倒産しかかって、これは危ないとなったときにどうしますか?
ヒトによって反応は色々あると思います。
たとえば、あわてて転職先を探してリクルートするかもしれません。
これを機会に独立を画策するヒトもいるでしょう。
資格を取ろうと考えるヒトもいるかもしれません。
会社をなんとか立て直そうと、取引先への営業に、さらに熱心に取り組むヒトもいるでしょう。
また毎日酒を飲みながら社長の悪口を言って、クダを巻くヒトもいるでしょうね。
どうしようもなくて家族に八つ当たり?
サイテーですね www
この様に何らかの困難にぶち当たって、ストレスが高まったときの反応は、ヒトそれぞれです。
でも実はこの反応の違いが、テロメアの長さを短くしたり、長くしたりしているのです。
ストレスに対するチャレンジ反応がテロメアを長くします
実はこのストレスに対して、あなたがどの様に感じるかで、あなたの遺伝子のテロメアの長さが決まるのです。
何らかのストレスに対して、あなたがそれを前向きに乗り越えようとした場合、あなたのテロメアは長くなります。
それに対して、後ろ向きな感情になった場合、つまり希望を失ってただ嘆くばかりであったり、常にプレッシャーを感じながら、どうしようもないと諦めてしまっていた場合は、テロメアは短くなります。
つまり人生に対して、チャレンジして挑んでいくタイプは、健康で長生きしますが、人生から逃げて希望を失っているタイプは、病気になりやすく早死になのです。
なんか分かる気がししますよね。
テロメアの研究がなくても、そう言われると、なんとなく昔から、そんな感じを思っていた様な気がしますね。
だいたいテレビドラマや映画でも、健気にチャレンジするヒロインは、溌剌としてキレイですが、希望をなくしてクダを巻いている脇役はヨレヨレです。
あれは科学的にも正しかったのですね www
在宅介護のストレスはあなたのテロメアを短くします
実はこのストレスとテロメアの関係がわかったのは、米国の障害児を介護する母親のテロメアの研究からでした。
障害児を抱えて、在宅で介護している母親のテロメアは、健康な子供を育てている母親のテロメアに比べて、明らかに短くなっていたのです。
また介護の期間が長ければ長いほど、テロメアも短くなっていました。
しかし障害児を介護している母親の中に、テロメアが短くなっていない母親もいたのです。
テロメアが短くなっていた母親と、長いままの母親の、この両者の違いはどこにあったのかというと、それは介護のストレスを強く感じていたかどうかでした。
テロメアが短くなっていた母親は、みんな介護に強いストレスを感じていたのです。
胸に20キロの重しが載っている様な感じ!
肺に穴が空いていて息を深く吸えない感じ!
胃がキリキリ痛む!
敵がすぐそこに待ち伏せしているかの様に、鼓動がドキドキ早くなる!
なんて感覚を感じる方もおられます。
これらのストレスを感じている場合、対象者は、迷走神経の活動が低下していたり、睡眠時に高いストレスホルモンが分泌されるなど、生理的なストレス反応が認められています。
そしてその様な対象者は、テロメアが短くなっており、テロメアーゼも少なくなっていたのです。
つまり生物学上の老化のプロセスが加速する状態にあったのですね。
それに対して、ストレスを感じていない母親は、テロメアは長いままで、テロメアーゼも多かったのです。
つまりストレスを感じていない母親は老化していないのです。
両者は全く同じ程度の介護をこなしているにもかかわらず、この様な差が出てきました。
この差が出た原因は、ストレスに対する反応の違いなのです。
テロメアを短くしないストレス反応とは
ヒトはストレスと出会うと、2通りに反応します。
それが『脅威反応』と『チャレンジ反応』です。
結果を先に言ってしまうと、ストレスに対して『脅威反応』を示す方のテロメアは短く、『チャレンジ反応』を示す方のテロメアが長いのです。
ではここでこの2つのストレス反応の違いをみていきましょう。
脅威反応
脅威反応とは、私たちが弱い草食動物だった昔に備わった、進化上の仕組みです。
基本的には、ライオンなどの捕食動物に出会った時のシマウマの反応で、緊急事態に陥ったときのスイッチみたいなものです。
脅威反応が起きると、血管は収縮します(ライオンに噛まれたときに出血を抑えるため)。
またこの反応は、脳への血流も減らします。
エネルギー源となるグルコースを血中で増加させるために、副腎からコルチゾールが分泌され、迷走神経の活動は低下し、鼓動が急に早くなってドキドキしたり、血圧が高くなったりします。
また脅威反応が全開になると、心理的にも「不安」や「恐怖」を感じます。
この様な『脅威反応』を繰り返している人は、テロメアが短くなっているのです。
そして普段から『脅威反応』を繰り返すヒトは、何かが起こる前から、悪い結果を想像して、不安を感じる傾向があるのです。
この性格的な傾向が、さらにテロメアを短くする原因になります。
つまりテロメアが短いヒトの問題として、「高いストレスのかかる出来事を経験する」のが問題なのではなく、普段から「その様な出来事が起きる前から、常に脅威を感じている」ことが問題なのです。
チャレンジ反応
ストレスに出会っても、脅威反応をしないヒトがいます。
そのタイプのヒトは、ストレスをチャレンジで迎え撃っているのです。
つまり常に自分の人生の様々な出来事に対して、「よし、かかってこい」という気持ちがあるのです。
これは「希望」と「興奮」と「自信」に裏付けられた反応なのです。
チャレンジ反応の場合、ヒトはすべての力を出し切ろうとして、心拍数が増え、脳や心臓に大量の血液が送られます。
『脅威反応』との違いは、末梢の血管が収縮しないことです。
ですから必要な場所に、沢山の血液が送られる様になります。
また副腎からは、適量のコルチゾールが分泌され、適度に体のエネルギーが増しますが、過剰反応ではありません。
この『チャレンジ反応』こそが、強くて健全なストレス反応であると言えます。
普段から『チャレンジ反応』をするヒトは、課題をよりよくこなすことができ、脳の老化の進行が遅かったり、認知症の発症リスクが低かったりします。
さてあなたのストレス反応は、『脅威反応』ですか『チャレンジ反応』ですか。
でも、あなたが『脅威反応』をするタイプだとしても、心配はいりません。
今日から、ご自分のストレスとの向き合い方を見直して、少しずつ前向きなチャレンジができるように変えてゆきましょう。
そうすれば、ふたたびあなたの遺伝子のテロメアも、長くなってくるのですから。
最後までお読みいただきありがとうございます。