ボトックス治療を受けたあとの脳卒中リハビリテーションで気をつけること!
はじめに
このところ脳卒中片麻痺の手足の強張りに対して、ボトックス治療を受けられる方が増えてきています。
ボトックスはボツリヌス菌が出すボツリヌストキシンという毒素を製剤化したものです、もともとは食中毒によって呼吸筋の障害を引き起こして死に至る重症な疾患の原因でした。
ボトックスはこの筋肉を弛緩させる性質を利用して、美容皮膚科の分野では顔面の表情筋の緊張を落としてシワ取り効果をもたらす治療に使われていました。
それを脳卒中片麻痺の筋肉の痙性を落とすことに応用したものが、今日のボトックス治療になります。
ボトックス治療を受けた後では、多くの方が強張っていた筋肉が柔らかくなって喜んでおられます。
しかし一部の方に、ボトックス治療を受けた後に、治療を受けた周囲の痛みや筋肉の強張りの増悪を感じる人がおられます。
また筋肉が柔らかくなったのに手や足が動かないと不満を漏らす方もおられます。
今回はそんなボトックス治療後のリハビリテーションについて解説したいと思います。
ボトックス治療で筋肉の痙性を落とすと筋肉はどうなるのか?
ボトックス治療はボツリヌス菌が出す「ボツリヌストキシン」と呼ばれる毒素が筋肉を弛緩させる効果を利用して、脳卒中の痙性麻痺による筋肉の強張りを解消するための治療方法です。
このボトックス製剤を麻痺側の強張った筋肉に注射することで、筋肉を弛緩させて、脳卒中による麻痺側の筋肉の強張りを軽減します。
しかしボトックス治療を受けた患者さんのリハビリテーションを行なっていて、ボトックス治療後にボトックス注射を受けた筋肉やその周辺の筋肉に痛みが出ることをしばしば経験します。
どうして強張った筋肉を柔らかくすることで、その筋肉や周辺の筋肉に痛みが出るのでしょう。
ボトックス治療後には筋肉の緊張のバランスが崩れます
ボトックス注射を麻痺側の強張った筋肉に対して行うと、その筋肉はとても柔らかくなります。
しかし注射を打った周囲の総ての筋肉が同じように柔らかくなる訳ではありません。
確かに注射を打った筋肉自体はとても柔らかくなりますが、その周囲の筋肉は硬いままに残ってしまうことがあります。
そうなると柔らかくなった筋肉と硬いままの筋肉のバランスが崩れてしまいます。
特に上腕二頭筋や三角筋・僧帽筋などの、大きな筋肉の痙性を落とした後で、その大きな筋肉の内側にある「コアマッスル」と呼ばれる関節の土台を支えて細かな関節運動を制御している小さな筋肉が強張ったままになってしまうことが結構あります。
そうするとその関節の周りの小さなコアマッスルにそれまでかかっていた、外側の大きな筋肉からの張力がなくなって、筋緊張のバランスが崩れます。
それが原因でこの小さなコアマッスルに痛みが出る場合があります。
ボトックス注射を受けた筋肉自体のコンディションが悪かった場合
ボトックス注射を受けると、その筋肉の緊張はほぐれ柔らかくなります。
しかしこれらの筋肉はもともとは長期間手がつけられないくらい強張っていた筋肉です。
当然のことに筋肉のコンディションは良くありません。
特に長い期間にわたって筋肉が強張っていた場合には、筋線維の中に「筋硬結」と呼ばれる硬いしこりができている場合があります。
この「筋硬結」が線維内にできている状態の筋肉を、ボトックス注射で柔らかくすると、それまで緊張していた筋線維に包まれていた「筋硬結」のカバーが外れたようになります。
ボトックス注射によって「筋硬結」がほぐれることはあまりないようですので、緩んだ筋肉の線維の中に「筋硬結」の硬いしこりだけが残ることになります。
そうするとカバーの外れた「筋硬結」が痛み出すことになります。
ボトックス治療後に筋肉が柔らかくなっても麻痺した筋肉が動かないのはなぜか?
もしかしたらあなたはボトックス注射で麻痺側の筋肉がほぐれれば、麻痺側の手などが動くようになると思っていたかもしれません。
しかしボトックス注射は、単に「筋肉を柔らかくする薬を強張った筋肉に注射してほぐす」治療です。
ですから「麻痺した筋肉を動くようにする」薬ではありません。
確かにボトックス注射で筋肉が柔らかくなったことで、その筋肉が動き出す場合があることはあります。
しかしそれはあくまでも、その筋肉が「もともと潜在的に動く能力があって、それが強張って動かせなかった」という非常にレアなケースだった場合です。
多くの場合はボトックス注射で筋肉の緊張を落とすと、さらにダランと力が抜けて動かなくなることがほとんどです。
例えばそれまでは真っ直ぐだった手首が、ダランと下を向いてしまうなんてこともたまにあります。
そこでショックを受ける方が多いようですね。
しかし筋肉の強張りがとれたということは、これからキチンとその筋肉を動かす練習をすれば、緊張ではなく、運動による筋肉の力が出てくる可能性があるということです。
ボトックス治療はそれだけで完了するものではありません。
ボトックスで筋緊張を和らげてからのリハビリテーションが大切なのです。
ボトックス後のリハビリテーションの注意点は?
ボトックス治療は筋肉の強張りをおとしてくれますが、決してちょうど良くドンピシャリに落としてくれるわけではありません。
そんなこと言うとボトックス注射を行った先生に怒られそうですが、大体は落とし足りなかったり、落としすぎたりするものです。
ですからボトックス注射の後のリハビリテーションも、筋緊張に関係するものが主になります。
ボトックス注射を受けた後のその部分に対するリハビリテーションの注意点は以下の3点になります。
⑴ ボトックス注射を受けた筋肉とその周辺の筋肉の筋緊張のバランスをとる
⑵ ボトックス注射を受けた筋肉の線維の中に残された「筋硬結」をケアする
⑶ ボトックス注射で落ちた筋緊張に代わって筋肉に運動刺激を加える
ボトックス治療自体は、きつく強張った麻痺側の筋緊張を軽減してくれる、とても良い治療方法ですが、結構その後のメンテナンスが重要になります。
そのメンテナンスがリハビリテーションということになるのです。
ここではどの部位にボトックスを行うか、上肢なのか下肢なのかでもリハビリテーションの内容が違ってきますので、詳しくはご紹介することができません。
しかしボトックス治療の効果をより高めて、副作用的な問題を極力少なくするためにも正しくアフターフォローのリハビリテーションを受けられることをお勧めします。
まとめ
今流行りの脳卒中片麻痺へのボトックス治療とその後のリハビリテーションについて簡単な解説を行いました。
ボトックス治療は筋緊張を軽減するとても優れた治療方法です。
しかし筋緊張を完全にコントロールできるわけではありません。
また筋緊張を落としたからといって、すぐにその筋肉が動き始めるわけでもありません。
ボトックス治療を受けた後のアフターフォローとしてのリハビリテーションを行うことで、筋緊張のコントロールや付随的な筋コンディショニングを行うことで、ボトックス治療の効果をより高めることが可能になります。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
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