脳卒中片麻痺のパーキンソン症状とそのリハビリテーション方法!
はじめに
脳卒中は基本的には障害された大脳半球と反対側の手足が麻痺する「片麻痺」になる病気です。
しかしヒトの脳は様々な働きを持っています。
ですから障害される脳の神経の部位によって、「片麻痺」以外の様々な障害が起こる可能性があります。
例えば「失語症」や「空間失認」などの高次脳機能、「記憶の障害」などもあります。
怒りっぽくなって我慢がきかなくなる「脱抑制」などの症状も見られる場合があります。
これらの様々な障害の中で、特に運動機能に関する「片麻痺」以外の障害に「パーキンソン症状」があります。
この「パーキンソン症状」とは、パーキンソン病に似た運動障害であることから、パーキンソン症状あるいはパーキンソン症候群と呼ばれています。
その症状は、歩こうとして足がすくんで歩き出せない「すくみ足」や「リズム障害」などの症状が挙げられます。
今回は脳卒中のパーキンソン症状について、その原因と効果的なリハビリテーション方法について、解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
脳卒中のパーキンソン症状はどんなものか?
パーキンソン症候群と呼ばれる症状は、パーキンソン病の症状とほとんど同じです。
症状としては以下の4つの症状が主なものとして挙げられます。
⑴ 安静時振戦
⑵ 筋強剛(筋固縮)
⑶ アキネジア(無動)・寡動
⑷ 姿勢反射障害
ここで少しだけ、この4つの症状についてご説明しておきますね。
まず⑴ の安静時振戦ですが、これはお年寄りで手先を細かく回すように震わせる方を見かけることがありますね。
これが安静時振戦の代表的なものです。
「ピルローリング(丸薬まるめ)」と呼ばれる振戦です。
安静時振戦はこんな風に、手足や顔の筋肉が細かく震える症状を言います。
次に⑵ の筋強剛(筋固縮)ですが、これは文字通りに筋肉が硬くこわばります。
でも筋強剛は、一般的な脳卒中の痙性麻痺による、筋肉の強張りとは少し違います。
筋強剛は、痙性よりももう少し粘りがある感じで、ネットリと硬くなる感じがすることが多いです。
⑶ のアキネジア(無動)は、動作が徐々に遅くなってゆき、反応が遅く、あまり動かなくなる現象を言います。
この無動は、呼びかけても反応が鈍いため、場合によっては周囲から「ボケた?」と勘違いされますが、時間をかけて待っていてあげると、ゆっくりと正しい反応が返ってきます。
顔の表情も乏しくなって、活気がなくジッとしている様に見えるのが特徴ですね。
⑷ の姿勢反射障害は、簡単に表現すれば、自分がキチンと真っ直ぐになっているかが分からなくなった状態です。
患者さんは右や左に傾いていたり、ひどい時には体がねじれてしまっています。
でも本人は自分では真っ直ぐにしているつもりなのです。
全身が映る鏡に、その姿を映して見せたりすると、初めてビックリして姿勢を治そうとします。
なぜ脳卒中にこれらのパーキンソン症状が出るのか?
ではなぜ脳卒中にこれらのパーキンソン症状が出るのでしょうか?
そのヒントは大脳基底核と呼ばれる神経核にあります。
実はこの大脳基底核には、あなたが何かの目的を持った動作を自動的に行わせてくれる、とても便利な機能があるのです。
例えばコップに入った水を飲む動作を想像してください。
赤ちゃんがコップの水を飲もうとすると、指が上手く動かせずに、コップを倒して水をこぼしたり、口元でコップを上手く傾けられずに、口元からダラダラこぼしたりしますね。
でも赤ちゃんは一生懸命にコップの水を飲もうと頑張って集中しています。
それでも上手くできないのです。
それに対して大人はどうでしょう?
例えばテレビの画面を見ながら、チラっと横目で、水の入ったコップを視界の隅に確認したら、あとは何も気にしなくても、ほとんど自動的にコップが口元に来て、飲みたいだけの量を飲めていませんか。
その時に、あなたは「どのくらい肘を伸ばそう」とか、「手首の角度はこのくらい?」とか、まったく意識していませんよね。
どうして赤ちゃんと大人は、そんなに違うのでしょうか?
大人は何度も練習して上手になったから!
そうですね、その通りです。
でも練習して上手になったら、何も考えなくても、自動的に手が動くのはどうしてでしょう?
実はこの自動的な運動を、大脳皮質の運動野の代わりに行っているのが、大脳基底核なのです。
大脳基底核が大脳皮質の代わりに、日常生活の一般的な動作を、自動的に行ってくれているために、大脳皮質は同時に別のことができます。
この場合は「テレビの内容に集中する」ことが大脳皮質の仕事になります。
そうしてあなたはテレビを見て「へえ、また北朝鮮がミサイルを撃ったのか、怖いな」なんて考えながら、無意識のうちにコップの水を飲めるのです。
大脳基底核は、日常よく行う動作を、繰り返し練習することで、上手に行う様に、その動作のデータを保存して、自動的に動かすための神経機能を持っています。
そして脳卒中によって大脳基底核が障害されると、この自動的な動作のコントロールが障害されて、パーキンソン症状が出てくるのです。
特に多発性脳梗塞で、パーキンソン症状が出ることが、よく知られています。
それは多発性脳梗塞で、詰まりやすい血管に「レンズ核線条体動脈」などの、大脳基底核に血液を送っている血管が含まれているからです。
また「被殻出血」や「視床出血」などの、一般的な脳出血も、大脳基底核を障害する場合があるために、パーキンソン症状が出る場合があります。
大脳基底核の主な機能とは
ここで少し寄り道をして、大脳基底核の主な機能について解説しておきたいと思います。
少し難しいかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
⑴ 大脳基底核は筋緊張を和らげます
大脳基底核の神経活動を支えている、神経伝達物質はドーパミンです。
ドーパミンは抑制性の神経伝達物質です。
この抑制性の神経伝達物質とは、興奮性の神経活動を抑制しますから、単純な表現をすると、筋肉を緊張させる神経活動を抑制して、筋肉の緊張を緩めます。
ですからドーパミンの量が不足したり、大脳基底核の神経が障害されたりすると、筋肉がこわばる「筋強剛(筋固縮)」になるのです。
⑵ 大脳基底核は動作のアクセルとブレーキです
大脳基底核は、すぐ隣にある「視床」と連携して、動作をコントロールしています。
大脳基底核の中に『淡蒼球』という神経核があり、「内節」と「外節」の2つに別れています。
この『淡蒼球』の「内節」と「外節」が、それぞれ視床の神経活動に対するアクセルとブレーキの働きをしています。
実はこの視床に、さまざまな一般的な動作のデータが蓄積されていると考えられており、状況に応じて、どの動作を行って、どの動作を行わないかを、大脳基底核の『淡蒼球』で調節している様なのです。
ですから大脳基底核が障害されることで、「すくみ足」や「リズム障害」などの様々な運動障害が出現します。
これらの運動障害の特徴は、特に手足の麻痺が無い様な場合でも、目的とする動作ができないのが特徴になります。
「仰向けに寝ていれば、麻痺側の足を、それなりに自由に動かせるのに、立ち上がって歩こうとすると、一歩も前に足が出ない」なんて場合は大脳基底核の障害になります。
⑶ 大脳基底核は姿勢制御に関係します
また大脳基底核は姿勢制御にも関係していると考えられています。
これはまだはっきりした機能が解明されていない様なのです。
しかし大脳基底核の中の「線条体」が萎縮して、左右のそれぞれの大脳半球にある、線条体の左右差が大きくなると(どちらかの線条体の萎縮が進むと)、身体が傾いてしまうことが分かっています。
大脳基底核は、手足を意識的に動かす「皮質脊髄路(錐体路)」にも、無意識に姿勢を制御する「網様体脊髄路」にも、深く関係しています。
ですから大脳基底核が障害されると、場合によっては、身体が傾いてしまうのです。
大脳基底核の身体の傾きの特徴としては、「本人は真っ直ぐにしているつもり」だということです。
一般に姿勢を支える筋肉が衰えたりして、身体が傾いたいる場合、本人は自分の身体が傾いていることを、意識しています。
しかし大脳基底核の障害の場合には、本人は「真っ直ぐにしているつもり」なのです。
ですから鏡に全身を写して、自分が傾いていることを意識すると、ビックリします。
大脳基底核の障害によるパーキンソン症状のリハビリ方法
それでは脳卒中のパーキンソン症状のリハビリテーションはどの様に考えればいいのでしょうか?
実は脳卒中の患者さんが、大脳基底核の障害になった場合、「これまで自然に出来ていたことが、どうしても出来ない状態」におちいります。
そしてその状態に対して、患者さんは「頭が真っ白」になってしまいます。
そしてとにかくなんとか身体を動かそうとして頑張るのですが、大脳基底核が壊れていては、どうにもなりませんね。
これはどうすれば良いのでしょうか?
実は方法は単純なのです
「赤ちゃんの真似」をすれば良いのです。
要するに、赤ちゃんに戻ったつもりで、もう一度、その動作を練習し直せば良いのです。
大脳基底核は、熟練した動作を自動的に行う神経核です。
そしてその熟練した動作のデータが大脳基底核から消えてしまったのです。
ですからもう一度練習し直して、その動作を熟練して大脳基底核にデータを入れなおす必要があります。
具体的にはどうすれば良い?
では具体的な練習方法としてはどの様な方法があるのでしょうか?
私があなたにご提案するのは「自分で自分に言葉で動作を指示する方法」です。
私たちが、慣れていない動作をする場合には、まずは頭で考えて、細かい動作を行います。
それはその動作を大脳基底核ではなく、大脳皮質の運動野で指示して行うということになります。
そして大脳皮質の運動野で作られた、運動指示はいったんは大脳基底核に送られて調節されますから、頭で考えて動くことが、大脳基底核の練習になるのです。
ですから大脳皮質の運動野で運動指示をするために、あえて細かい動作を言葉にして、大脳皮質で意識してから行うことで、「大脳皮質で運動指示をして、それを大脳基底核で練習する」過程を強制的に行います。
言葉にしないで、無理に動作を行おうとすると、今までの習慣で、大脳皮質を使わずに、いきなり大脳基底核で自動的に動かそうとしてしまいます。
そして頭の中は真っ白になってしまっています。
脳にそんな癖がついているのです。
ですから例えば「まずは左足の指先に体重をかけて」次に「右足を軽く振り出す」などの、細かい動作を、言葉にして自分自身に命令することで、上手に大脳皮質による運動指示を促します。
いかがでしょうか?
あなたは今まで出来ていた動作が、出来なくなった時、頭の中が真っ白になっていませんか?
まとめ
今回は脳卒中にともなうパーキンソン症状の、原因とリハビリテーション方法について解説を行いました。
脳卒中にともなうパーキンソン症状は、脳梗塞や脳出血に伴い、大脳基底核が障害されて起こります。
大脳基底核は、習熟した動作を自動的に行うための神経核なので、普段は無意識に出来ていた動作が出来なくなります。
麻痺がないのに動作ができないのは、この大脳基底核の障害が、原因です。
「自分で自分に言葉で動作を指示する方法」によるリハビリテーション方法は、障害された大脳基底核の機能を、大脳皮質の運動野によって、再度練習し直すリハビリテーション方法になります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
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