はじめに
脳性麻痺(CP)のお子さんは、単に手足が動かせないだけでなく、たとえ動かせても、自分の意思で手足を動かす事ができません。
もう少し詳しくいうと、自分の意思で、上手に、あるいは目的を持って、手足を動かす事ができていないのです。
たとえば反射的に鼻のチューブを抜いてしまうのに、目の前に示されたオモチャには手を伸ばさない。
などの反応が見られます。
これはどういう事かというと、鼻のチューブを抜いてしまうのは、反射的な動作で、私たちも顔の周りにハエが飛んでいたら、とっさに振り払いますよね、それと同じです。
それに対して、目の前のオモチャに手を伸ばすのには、意志を持って手の運動を制御しなければなりません。
つまり脳性麻痺のお子さんは、手足の運動麻痺だけでなく、手足の運動制御についてもキチンとしたケアが必要になるのです。
この時に単に手足を動かす動作の制御を行っているのが「1次運動野」と呼ばれる部分で、1次運動野が障害される事で、手足は麻痺します。
それよりさらに高度な運動制御を行っているのが、高次運動野と呼ばれる領域になります。
今回はこの「高次運動野」の中の、「運動前野」の働きと、そのリハビリ方法について解説します。
どうぞよろしくお願いします。
高次運動野とは!
一般的に運動神経と呼ばれているのは、皮質脊髄路という、大脳皮質の1次運動野から出ている、手足の筋肉を動かす指令を出している神経経路です。
この「1次運動野」は、私たちが意識して、手を曲げたり、足を蹴ったりという、基本的な動作の指令を出しています。
それに対して「高次運動野」は、ただ単に手足の曲げ伸ばしをするような単純な運動ではなく、もっと複雑な運動の制御を行っています。
たとえばテーブルの上の物を取ろうとして、手を伸ばす場合。
自分の肩から、テーブルの上の目標物までの距離感が大切になりますね。
これを間違うと、キチンと手を伸ばす事ができません。
また取ろうとしている目標物が、リンゴの場合と、コーヒーカップの場合、またはスプーンである場合で、それぞれ指の動かし方も変わってきます。
対象物の形にあわせて、最適な指の動かし方をしなければなりません。
あるいは取ろうとしているものが、重い金属製の球であった場合と、それが生卵であった場合では、力加減がずいぶんと違います。
金属の球を持ち上げる場合には、しっかりと指先に力を入れておかないと、指が滑って、重い球を落としてしまいます。
それに対して、生卵を持ち上げる場合には、あまり指先に力を入れると、握りつぶしてしまいますから、指の腹全体に、そっと優しく力を加えるようにします。
高次運動野では、この様なそれぞれの状況に応じた、複雑な運動制御を行っています。
高次運動野はザックリと運動前野と補足運動野に分かれます!
「高次運動野」は、基本的な意思決定を行っている「前頭前野」のすぐ後ろで、「1次運動野」のすぐ前にあります。
そして「高次運動野」は、さらにザックリと「運動前野」と「補足運動野」に分けられます。
今回は「高次運動野」の中でも、特に「運動前野」の働きと、そのリハビリテーションについて解説していきます。
「運動前野」の働き!
「運動前野」は、頭頂連合野から、視覚情報や体性感覚情報をたくさん受け取っています。
つまり「運動前野」は、視覚や筋肉の動き、関節の動きなどの感覚情報をもとに、複雑な運動の制御をしているのです。
たとえば目の前のテーブルの上の、ご飯や味噌汁の位置を確認した上で、それらをひっくり返さないように、上手に持ち上げるために、空間を把握しながら、目的の物と自分の腕の関係を調節していきます。
また感覚情報に対応して、動作を制御する働きもあると考えられています。
つまり私たちが、交差点で信号を見て、信号の色が青ならば進み、赤ならば止まるのも、この運動前野の働きによって制御されているのです。
運動前野は「腹側運動前野」と「背側運動前野」に分かれています
「腹側運動前野」の働き
腹側運動前野は、視覚などの空間情報に基づいて、手の運動などを制御しています。
たとえば手で持とうとする目標物を、目で見た場合、目からその物への距離と、肩からその物への距離は違っています。
ですから腹側運動前野で、目で見た場合の目標物の距離から、肩からの目標物への距離に変換して、手の動作を制御するようにします。
また目標物の形によって、それを持ち上げるための、手の指の形や、運動方向が変わってきます。
たとえば手を伸ばして持ち上げる対象が、リンゴであった場合と、コーヒーカップであった場合とでは、手の動かし方が大きく変わってきます。
運動前野では、頭頂葉からの視覚情報などに従って、その目標物に対して最適な手の操作運動を制御します。
「背側運動前野」の働き
背側運動前野では、前頭前野(前頭葉の意思決定の中枢)や頭頂葉(視覚+体性感覚の中枢)と連携して、視覚などの感覚情報と動作を関連させる働きをしています。
背側運動野では、前頭前野+頭頂葉と連携して、視覚情報(感覚情報)をシンボルとしてとらえ、それをもとに、そのルールに従った運動制御を行います。
つまり交差点で、信号機の色が青だった場合は、横断歩道を渡ります。
しかし信号機の色が赤だった場合、交差点の前で立ち止まり、信号が変わるのを待ちます。
これが視覚情報のルールに従った運動制御になります。
この視覚情報のルールに従った運動制御には、たとえば車椅子に座ったら、必ずブレーキを掛けるとか、椅子から立ち上がるときには、必ず手すりにつかまるとかの動作があります。
このときに視覚情報は、動作を決定するためのシンボル、またはルールとなっています。
このように運動前野では、視覚などの感覚情報と関連した、運動制御を行なっているのです。
脳性麻痺のニューロリハビリによる運動前野へのアプローチ
脳性麻痺のお子さんは、たとえ手足が動かせるようになっていても、自分から物を持てなかったり、持てたとしてもキチンと持てなかったり、操作ができなかったりします。
これらの手足の複雑な制御については、単に手足の運動を制御している、1次運動野だけでなく、さらに視覚情報などによって、複雑な運動制御を行なっている「運動前野」の働きが重要になってきます。
小児ニューロリハビリテーション では、これらの運動制御に関して、単に指の曲げ伸ばしだけでなく、つまみ動作や、包み込む動作などの、指の高度な制御をはじめ、目標物の形に合わせた、指の運動制御をトレーニングしていきます。
まとめ
脳性麻痺の場合、お子さんは単に手足が動くようになっただけでは、目的を持った行動をすることが出来るようにはなりません。
そのためには、単に手足を思い通りに動かす練習だけでなく、目標となる物の形や働きに合わせた、より複雑な手足の運動制御を獲得していく必要があるのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。