今日は少し昔話をしたいと思います。
私は1995年ごろ、アメリカはオハイオ州の州立大学に留学していました。
そして私が学んでいたのは、米国の呼吸療法士を養成するコースでした。
当時の日本では、呼吸ケアを専門に行う職種がなく、主に一部のマニアックな理学療法士や看護師が、独学で技術を学んで、集中治療室などで活動していました。
当時の私は、理学療法士として、ある330床の総合病院のリハビリテーションセンターで理学療法科の科長をしていました。
その当時は、ようやくチラホラと呼吸ケアの論文が、リハビリテーション関係のジャーナルに発表され始めた時期で、私もいち早く興味を持って独学で勉強を始めていたのです。
その結果として、かなりマニアックに呼吸ケアに、のめり込んでしまいました。
当時のリハビリテーションは、経験則的な考え方が主流で、あまり理論的な学問ではなかったのですが、呼吸ケアに関しては、非常に理論的で、それがとても魅力的に感じてしまったのですね。
その結果として、趣味が高じたあまり、当時の特例制度を利用して、「臨床工学技士」の資格も取得してしまいました。
この「臨床工学技士」とは、主に透析機の操作を行う、いわゆるテクニッシャンと呼ばれる仕事が中心でしたが、その他に人工心肺の操作や、人工呼吸器の操作も業務に含まれていました。
この人工呼吸器の操作ができることが、とても魅力的だったのですね。
理学療法士は、業務に制限がありますから、一般的には人工呼吸器にはさわれません。
しかし臨床工学技士の資格があれば、医師の指示の元、いくらでも人工呼吸器を操作することが出来るのです。
しかし臨床工学技士は、人工呼吸器にさわれても、患者さんに直接触ることはできません。
ところが私は理学療法士ですから、患者さんに直接さわって、呼吸理学療法を行うことが出来るのです。
つまりこういうことです。
理学療法士: 患者にさわって呼吸理学療法ができるが、人工呼吸器にさわれない
臨床工学技士: 人工呼吸器を操作できるが、患者にさわれない
理学療法士+臨床工学技士 = 患者にさわれる+人工呼吸器にさわれる
まるでアメリカの呼吸療法士みたいに働ける!
と言うわけです。
まあそれでしばらくは「キャッほーい」てな感じで、集中治療室で楽しく働いていたのですね。
当時の院長先生が、私の呼吸ケアをとても気に入ってくださって、かなり自由にやらせてもらえていたのです。
どの程度自由かと言うと、病院が購入する人工呼吸器の機種選定から、どの患者さんに、どの人工呼吸器を装着するかなどの決定権が、全て私にありました。
今考えると、相当な権限ですよね。
まあ当時は良いことばかりではなく、様々な方々との軋轢や、シンパの方々の応援など、いろんなドラマがありました。
でもおそらくは、その当時では、集中治療室常勤で呼吸ケアを行っていた、日本で初めての理学療法士であったと思います。
しかし時が経つにつれ、やはり私の悪い癖が出てしまいます。
「本物の呼吸療法士の資格が欲しい」と言うやつです。
呼吸療法士の資格は、当時はアメリカにしか制度がありませんでした(フィリピンとかにも一部ありましたが)。
なのでそれはすなわち「アメリカに留学するぞ」と言う宣言に他なりません。
ここでアメリカに留学して、呼吸ケアの勉強をするために、必要なものはなんでしょう?
当然、情熱と努力は必要ですが、問題はそんな綺麗事ではありません。
一番大切なのは「金と英語力」です!
まず外国人がアメリカの大学で学ぶには、結構なお金がかかります。
当然、学費の安い州立大学を目指すのですが、それでもかなりお金がかかります。
どうしてかと言うと、州立大学の学生の学費は、外国人の学費としては、その州に住んでいるアメリカ人学生の2倍もとられてしまうからです。
外国人は、授業料が無条件に2倍です。
そうすることで、アメリカの州立大学は、自分の国の大学生の学費を安く抑えているのです。
そして自分の国の学生が学ぶ機会を増やし、外国の学生がアメリカで学ぶチャンスも増やしているのです。
日本の大学では、外国の学生の学費を、タダ同然に安くしたりして、ボランティア活動みたいに考えていますが、そんなお人好しは日本人だけです。
なので外国人学生を受け入れることは、アメリカの州立大学では、ボランティアではなく、立派なビジネス戦略になっています。
ですからアメリカの大学には、本当にたくさんの外国人学生が学んでいます。
そうすることで大学の経営も良くなるし、地元出身の学生も、海外のいろんな国の文化や考え方を学ぶことができます。
アメリカ人は、本当によくできたシステムを考えるものです。
ではアメリカの大学の医療系のコースにも、外国人学生が溢れかえっているかと言うと、そんなことはありません。
もともと医療系のコースは、学生の定員が少ない上に、外国人は基本的には入学を許可されません。
命に関わる医療系のコースは、いわば大学での聖域のような扱いでした。
外国人でアメリカの大学の医療系コースに入れるのは、特別なコネがあって、特別に許可された場合のみなのです。
なので実は一番大切なのは、「コネ」かもしれませんね。
私の場合は、当時の私が鞄持ちをさせてもらっていた、某医科大学の教授にお願いして、オハイオ州立大学にねじ込んでいただきました。
ですから問題は、次の「お金」と「英語力」ですね。
まあ「お金」の問題も、なんとかかんとか解決して、最後の問題は「英語力」です。
どんなにコネがあろうとも、州立大学に入るためには、少なくともTOFELで500点以上必要になります。
これはTOEICではなくTOFELですからね。
500点と言うと、かなり高い数字です。
この英語力については、本当に苦労しましたが、アメリカに渡った後で、大学付属の英語学校に数ヶ月通って、なんとかTOFEL試験だけはクリアできるようになったのです。
しかし英語の発音だけは、なかなか上達しませんでした。
なので大学で授業を受けているときは、良いのですが、病院での実習では、本当に苦労しました。
とにかく相手に、私の英語が伝わらないのです。
言いたいことは山ほどあるのに、相手に全然伝えられない。
本当に、これほど辛いことはありません。
しかも、アメリカの医療系の大学のコースは、本当に厳しいのです。
実習でちょっとのヘマが、とんでもないペナルティになってしまいます。
一学年上の、私と親しくしてくれていた学生は、臨床実習で吸入薬を取り違えて、コースをクビになりました。
彼は家族持ちの苦労人で、何かの記念日には、よく私を食事に招待してくれていました。
とても良いやつだったのですが。
そのたった一回のミスで、彼はオハイオ州やその周辺の州で、呼吸療法士の資格を取ることは、一生できなくなってしまったのです。
アメリカは本当に厳しいなあと思います。
しかし私は、アメリカ人は、日本人以上に忖度する民族であることも、その時に感じていました。
私が留学していたオハイオ州は、移民に対して反対派の多い州です。
いわばトランプ大統領みたいな考え方の人が、ほとんどな地域です。
※実はリベラルで外国人に寛容なアメリカ人はニューヨークとロサンゼルスにしか住んでいません。
なので私が留学生だとわかると、みなさん必ずこう質問してくるのです。
「君は大学を卒業したら、自分の国に帰るの、それとも合衆国に残るの?」ってね。
そこで私が「当然、日本に帰って、日本で医療の仕事に戻ります」と言うと、みなさん一様に嬉しそうにうなづくのです。
一度、別の日本人学生(医療系ではありません)が、「私は合衆国に残りたいと考えています」と答えたら、すごく気まずそうな顔をされていました。
どうも留学生が、自分の祖国に帰るのか、合衆国に残るのかは、オハイオ州の人にとって、重要な問題であるようでした。
そして当時私が指導を受けていた、アメリカの大学の呼吸ケアコースの教授たちは、「あいつは日本に帰るやつ」と、私のことを認識しているようでした。
なので、軽いミスならば、結構な確率でお目こぼししていただきました。
たとえば、患者さんに薬剤を投与する場合、必ず自分で薬剤を用意しなければなりません。
誰か他のスタッフが用意したものを使用すると、それは罠かもしれず、犯罪に巻き込まれる可能性があるため、絶対にやってはいけない行為でした。
でも当時は呑気な日本人であった私は、実習先の病院で、教官が差し出す薬剤を、気楽に患者さんに投与してしまっていたのです。
今にして思えば、簡単に罠にハマる、間抜けな日本人だったことでしょう。
しかし「間抜けな日本に帰る、間抜けな日本人」であれば問題ないと考えたのでしょうね。
けっこう怒られずに、スルーパスしてしまいました。
そんな感じで、当時は「けっこう教官は私には甘いな」と感じていたのです。
しかしそんな私にも、病院の臨床実習で絶体絶命のミスを犯すときがやってきてしまいました。
昼下がりの金髪人妻との一件について!
ある日のこと、けっこう美人の女性教官から、「タツヤ、あの患者の呼吸音をチェックしなさい」と命令されました。
その患者さんも、けっこうグラマーな金髪の人妻風美人です。
私は金髪美人に挟まれながら、やや緊張して、その人妻風金髪美人に話しかけました。
「Can I check your breath sound」(あなたの呼吸音を調べさせてください)
確かにそう言ったつもりだったのです。
しかし「ブレスサウンド(呼吸音)」の部分が、「ブレストサウンド」に訛ってしまいました。
「ブレストサウンド」(オッパイ音)
つまりあろうことか私は「オッパイの音」を聞かせてくださいと、人妻風金髪美人にお願いしてしまったのです。
なんと言う大胆さでしょう。
人は勇気を振り絞ることで、新たな一歩が踏み出せるのです。
なんて言ってる場合ではありません。
ここはそう言うこと(セクハラ)に、とてつもなく厳しいアメリカ合衆国ではありませんか。
これは終わったな!
私は即時の帰国を覚悟しました。
しかし結果はと言うと。
周囲の女性スタッフに大笑いされて終わりでした。
特にペナルティもなく、ありがたいことにコースをクビになることもありませんでした。
ただしばらくは、そこの病院のスタッフに「ミスターオッパイ」と呼ばれて、クスクス笑われると言う屈辱を味わった、若き日の僕でした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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