小児リハビリで運動学習の効果を高めるために我が子にしておきたいこと!
はじめに
小児のリハビリテーションを行う場合に、そのリハビリテーションが必要となる原因は様々です。
しかし小児リハビリテーションを行う目的の一番重要な部分は共通と行ってもいいでしょう!
それはつまり子供の「運動学習」をすすめて麻痺の回復と運動機能の向上を目指すということです。
大人と違って子供はこれまでに自分の手足をキチンと動かした経験がないため、自分の手足をどうすれば良いのか、使い方を覚えてもらわなくてはなりません。
小児リハビリテーションの重要なポイントとしては、子供達に自分の手足の使い方を「気付かせ」そして正しい方法を「学んでもらう」ことにあります。
要するに子供の脳に手足の運動制御を行う運動プログラムを入力していかなくてはならないのです。
この時に問題になってくるのが、運動制御プログラムを入力する手段である、手足や体幹のコンディションです。
小児リハビリテーションの対象となる子供達の多くは、手足の筋肉や脊柱起立筋群が硬く強張っています。
しかし筋肉が硬く強張っていると、その筋肉の線維の中にある「筋紡錘」や「ゴルジ腱器官」と呼ばれる感覚センサーが作動しなくなっています。
そしてこれらの感覚センサーは体性感覚と呼ばれる、手足の位置や運動、あるいは筋肉の力の入り具合などの情報を脳に伝える働きをしています。
ですがリハビリを受けている子供達の筋肉は硬く強張っているために、この感覚センサーが働いていないのです。
ですからいくら手足を動かしても、その運動情報はあまり脳に届いていないのです。
これでは壊れたキーボードを叩いてコンピュータに入力しようとしている様なものです。
壊れたキーボードをいくら叩いてもパソコンにプログラムを入力することは出来ませんよね。
ではこの壊れたキーボードを治す方法、つまりは硬く強張った筋肉をほぐして、感覚センサーを作動させる方法はあるのでしょうか?
そして筋肉の強張りを揉みほぐすだけで「運動学習」の能力が高まるなんてあり得るのでしょうか?
実はあるのです!
そして高まります!
今回はこの筋肉の強張りが、どれほど子供のリハビリテーションを阻害しているのかについて解説しながら、そのリハビリテーションの方法についてご紹介したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
どうして子供達の筋肉は強張ってしまうのか?
子供の筋肉が強張る原因としては、いくつかの理由があり、それが相互に関連しながら、全体的な強張りとなっています。
その主な例をいくつか挙げてご説明しますね。
⑴ 大脳皮質運動野の興奮性運動神経と抑制性運動神経のバランスが取れていない場合
脳の運動神経には大雑把に分けて「興奮性神経」と「抑制性神経」があります。
これは「興奮性神経」が手足や体幹の筋肉を動かすために筋肉を緊張させるのに対して、「抑制性神経」がその緊張を抑える働きをすることで、適性な筋肉の活動が行えるシステムになっているのです。
この興奮性神経細胞と抑制性神経細胞のバランスが崩れてしまい、興奮性細胞の活動が過剰になると全身の筋緊張が高まってしまいます。
⑵ 大脳基底核と視床の運動コントロール回路の不調
大脳皮質の運動野(高次運動野、一次運動野)での運動制御をサポートする仕組みが、大脳皮質の下にある「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」にあります。
これは大脳皮質運動野での運動制御を補助するための運動コントロール回路です。
どの様な働きがあるのかと言うと、例えばテーブルの上のリンゴに手を伸ばした時のことを考えてください。
あなたは「リンゴをとろう」と思うだけで「手を肩の高さまで挙げてから、まっすぐに手を伸ばそう」とか考えなくても、自然と手がリンゴをとれますよね。
この半自動的に手や足の動きを制御する仕組みが「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」なのです。
そして「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」の仕組みをもう少し詳しく見てみると、「視床」は様々な感覚情報が集まる感覚のターミナルで、視床で感覚情報と運動指令の統合が行われて、正確な運動指令が作られます。
そしてそれを細かく制御するブレーキとアクセルの働きを「大脳基底核」が果たしています。
そしてこの「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」の不調によって、筋緊張が上手く調節できなくなって、手足や体幹の筋肉が強張ります。
実はアテトーゼ型の麻痺の手足の震えや強張りは、この「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」の不調が原因です。
⑶ 大脳皮質による神経反射機能の抑制の低下
私たちの体には色々な神経の反射があります。
膝のお皿の下をゴムのハンマーで叩くとピョコンと膝が伸びる「膝蓋腱反射」なんかが有名です。
そのほかにも脳幹部や脊髄のレベルで様々な反射があります。
普段はこれらの反射は、大脳皮質からの抑制を受けて抑えられています。
しかし大脳皮質の麻痺により、これらの反射の抑制が解かれると、手足や体幹の筋肉に反射による筋緊張が頻繁に出る様になり、筋肉が強張ってしまいます。
⑷ 体調不良に伴う自律神経の不調と筋肉の浮腫み
急激な体調の変化などがあった場合には自律神経も影響を受ける場合があります。
それによって手足の筋肉の血液の流れが上手くいかなくなって、筋肉が浮腫んでしまう場合があります。
この場合に手足の筋肉が硬く強張ります。
また体調不良で長い間ベッド上で動けなかったり、厳しい呼吸不全があって人工呼吸器による呼吸管理が長くなった場合などにも、肩や首の周囲や腰の筋肉が強張ってしまいます。
⑸ 脳の運動制御システムの不調による筋肉の強張り
脳の大脳皮質にある運動野で手足や体幹の運動を制御していますが、その運動の指令に対して、実際の手足の運動の結果が感覚フィードバックとして戻されてきます。
この運動指令と感覚フィードバックとを照合して、指令に対して実際の運動がどうだったかを確認しながら、さらに動作の最適化を行うのが運動制御です。
もし手足の感覚が低下していて、この運動指令に対して、感覚フィードバックが行われないとどうなるでしょう。
運動指令を出した大脳皮質は混乱して、さらに手足の緊張を高める指令を出してしまいます。
まあ上司が命令しても部下が動かなくて報告もなかったらそうなりますよね!
実はこの運動制御システムの不調は、筋肉が強張っていると筋肉の線維の中の感覚センサーが働かなくなることで、起こる場合が結構あります。
そうすると元々筋肉が強張って感覚フィードバックがなくなるのですが、それが原因で運動制御システムが不調になり、さらに筋肉が強張ると言う悪循環に陥ってしまうのです。
これは結構よく見かける問題なので注意が必要ですよ!
子供の筋肉が強張るとどんなことが起きるか?
さてそれでは子供の手足や背骨の周りの筋肉が強張っているとどんな問題が起きるのでしょうか?
この時に注目してほしいポイントは先ほど解説した『⑸ 脳の運動制御システムの不調による筋肉の強張り』についてです。
筋肉が強張っていると筋肉の線維の中の感覚センサーが働かなくなります。
すると大脳皮質の運動野からの運動指令に対して、実際の運動がどうであったかの感覚フィードバックが行われなくなります。
そうして運動制御システムが不調になって筋肉の緊張をコントロール出来なくなるのです。
しかし問題はそれだけではありません。
運動制御システムが不調になると言うことは、運動制御に何する『運動学習』が出来なくなると言うことなのです。
運動制御の流れは以下の様になっています
⑴ 高次運動野で運動プログラムと姿勢制御プログラムが作成される。
⑵ 運動プログラムが一次運動野に送られて具体的な手足を動かす運動指令が作られる。
⑶ この運動指令はいったんは大脳基底核と視床に送られて細かい調節を受けます。
⑷ 再び一次運動野に戻された運動指令は皮質脊髄路と呼ばれる経路で脊髄を下行して手足を動かします。
⑸ 実際の手足の運動がどうだったかが感覚フィードバックとして視床と大脳皮質の感覚野に戻され、運動指令と照合されます。
⑹ 照合の結果を受けて再び運動を制御し直します。
これを繰り返すことで、運動制御の仕方を学習していくのです。
しかし筋肉が強張っていて感覚センサーが働かなくて、感覚フィードバックが行われないとどうなるでしょう。
正しい運動制御も、効果的な運動制御も行われません。
実は小児のリハビリテーションではこの問題を放置したまま、ただ型にはまった運動を行なっているだけのケースがとても多いのです。
でもこれでは壊れたキーボードを一生懸命に叩いてパソコンでプログラミングをしている様なものです。
だから良くなる感覚が湧かないから、お子さんも一生懸命になれないのです。
子供の勘は結構当たっていますよ!
子供の筋肉の強張りを解消するとどんなメリットがあるか?
お子さんの手足や体幹の筋肉の強張りを解消するとどうなるでしょう?
筋肉の強張りを解消すると、まずは感覚フィードバックが出来る様になり、運動制御のシステムが働く様になります。
そうすると筋肉の強張りが徐々に緩やかに落ち着いてきます。
そうすると筋肉の強張りによって起こっていた痛みも和らいでいきます。
痛みが和らぐと自律神経の機能も落ち着いてさらに筋肉の緊張が低下します。
痛みがなくなって筋緊張が落ち着いてくると、無理に力まなくても手足が動かせる様になってきます。
そしてより効果的な『運動学習』が出来る様になります。
大脳皮質の活動が活発になり、知的なレベルも上がってきて、積極的に活動する様になります。
これまで陥っていた筋肉の強張りによる悪循環スパイラルからの脱出により、身体機能や精神機能の向上が始まります。
子供の筋肉の強張りを解消して柔らかくする方法!
筋肉の強張りをほぐすと良いことばかりなのは分かったが、本当にこの子の手足の強張りが解消できるの?
みなさん半信半疑ですよね。
でも完全保証はできませんが、結構筋緊張を適正に落ち着かせることは出来るのです。
その方法はマイオセラピーと呼ばれる『深部筋マッサージ』です。
これからご紹介するいくつかの筋肉の盛り上がりに沿って、少し深めに筋肉を押し込んで見ると、筋肉の中に固いしこりが触れる場合があります。
これが筋硬結と呼ばれる筋肉の線維化した強張りです。
これをゆっくりと揉みほぐしてやることで、強張っている筋肉の緊張が落ち着いてきます。
またご紹介する筋肉はコアマッスルと呼ばれる、関節周囲の筋緊張を調節するセンサーとなる筋肉ですから、その緊張が落ちることで周囲の筋緊張も和らいでいきます。
それではターゲットととなる筋肉をご紹介しますね
⑴ 肩甲挙筋
肩甲骨の上縁の一番内側の角から首の側面に向けて強張っている筋肉を揉みほぐします。
⑵ 頭板状筋
耳の後ろから首筋に沿っての筋肉を揉みほぐします。
⑶ 棘下筋
肩甲骨の下2/3辺りの筋肉の盛り上がりの強張った部分を揉みほぐします。
⑷ 腰腸肋筋
腰の両脇の筋肉の強張りを揉みほぐします。
⑸ 中臀筋と梨状筋
お尻の筋肉を全体的に揉みほぐします。表面の大殿筋より、少し奥の深いところに指を入れる様にします。
⑹ 手のひらの筋肉
手のひらの強張りをゆっくり揉みほぐしながら、ゆっくり指を曲げ伸ばしします。
⑺ 足の裏の筋肉
足の裏の強張りをゆっくり揉みほぐしながら、ゆっくり足の指を曲げ伸ばしします。
ご紹介したこれらの筋肉の膨らみをゆっくりと深めに押し込むと、筋肉の中に固いしこりが触れます。
これをゆっくりとこする様に揉みながらほぐしていきます。
このシコリをあまり強く押すと痛みが強く出ますので、初めから強く押さずにゆっくりと少しずつ力を入れる様に気をつけてください。
少し難しいかもしれませんが、怖がらずにお子さんとのスキンシップだと思ってゆっくり揉みほぐしていきましょう。
まとめ
手足の筋肉が強張っていると、筋肉の線維内の感覚センサーが働かなくなり運動制御のシステムが不調となります。
それに伴い筋肉がさらに強張り、痛みが出る悪循環スパイラルに陥ります。
さらに運動制御の不調に伴い、運動学習も行われなくなります。
小児のリハビリテーションでは、子供は初めは自分の手足がどんな働きをするのかさえ分かっていません。
そのため自分の身体をどう動かすのかを知るための「運動学習」がとても大切になります。
筋肉の強張りを解消して感覚フィードバックを取り戻し、運動制御を正常化することが、運動学習を効果的に行う上で必須になります。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。