脳卒中片麻痺の歩行 ②麻痺側の足を外側にぶん回すように振り出す歩行パターン
はじめに
今回は代表的な脳卒中片麻痺の歩行パターン3タイプの②麻痺側の足を外側にぶん回すように振り出す歩行パターンの自主トレ方法についてご紹介します。
② 麻痺側の膝を伸ばしたまま外側にぶん回すように振り出す歩行パターン
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麻痺側の膝が伸びたまま振り出している
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足の爪先がやや下に垂れ下がっている
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麻痺側の肩と腰の動きが硬い
この『麻痺側の脚を外側にぶん回すように振り出す歩行パターン』は、麻痺側の膝を伸ばした状態で、麻痺側の腰を少し吊りあげるようにしながら、麻痺側の足先を少し外側に円を描くように、振り出すようにして歩きます。
『麻痺側の脚を外側にぶん回すように振り出す歩行パターン』となる原因
脳卒中片麻痺による痙性麻痺では、一般的に麻痺側の下肢は、股関節や膝を伸ばすように緊張が出ます。
その状態で麻痺側の足を前に振り出そうとすると股関節や膝関節がスムースに曲がらないため、なかなか真直ぐ前に足を出すことができません。
そのため、麻痺側の足を前に振り出すために、麻痺側の骨盤を少し上に持ち上げるようにして、麻痺側の下肢を引き上げながら、爪先が地面に当たらないように、少し外側を円を描くようにして足を前に振り出します。
どうしてこの様な歩き方を身につけてしまうのかと言うと、歩行運動をコントロールする「皮質脊髄路」と「皮質-網様体脊髄路」と言う、2つの神経経路の性質の違いによるものです。
「皮質脊髄路系」
意識的な運動として、股関節や膝関節を曲げ伸ばしを行うのは、一次運動野からの「皮質脊髄路系」の運動コントロールです。
この皮質脊髄路系は対側神経支配なため、脳卒中片麻痺の影響を受けやすく、麻痺が強く出る傾向があります。
ですから脳卒中片麻痺の場合は、体幹ではなく手足のより先端の方に麻痺が強く出ます。
「皮質-網様体脊髄路系」
それに対して、手足の意識的な運動に先駆けて、無意識的に姿勢や筋緊張をコントロールする「皮質-網様体脊髄路系」は両側性の神経支配で、脳卒中片麻痺の影響を受けにくいのです。
ですからその「皮質-網様体脊髄路系」がコントロールする背骨や腰を動かす筋肉はあまり麻痺が出ない傾向があります。
この2つの運動コントロール系の性格の違いから、股関節や膝関節を動かす筋肉は麻痺して動きにくいため、それを補うために、無意識的に麻痺側の骨盤を引き上げて、足を振り出す運動を行ってしまうのです。
『麻痺側の脚を外側にぶん回すように振り出す歩行パターン』の問題点
この歩行パターンを続けていくと、麻痺側の股関節や膝関節を動かす筋群は、常に関節を伸ばす方向に力を入れ続けてしまいます。
ですからこのパターンで歩き続けると、ドンドン下肢の伸展筋群の緊張が高まっていき、ますますぶん回し歩行が目立つようになってしまいます。
また股関節、膝関節、足関節や足先の関節が硬く強張って、動かしにくくなり、痛みが出やすくなります。
『麻痺側の脚を外側にぶん回すように振り出す歩行パターン』の改善方法
この歩行パターンを改善して、ぶん回しから脱却するためには、麻痺側の股関節と膝関節の屈曲運動をきちんと練習しなくてはなりません。
しかし股関節や膝関節の屈曲運動のコントロールを行っているのは、片麻痺が強く出やすい、「皮質脊髄路系」のコントロールであるため、屈曲運動ができるようになるまでには、結構な時間がかかります。
また『ぶん回し歩行』をしていた期間が長い場合は、股関節や膝関節の周囲の筋群が、慢性的に硬く強張っている場合があります。
その場合は、有効な股関節や膝関節の屈曲運動の練習をするために、まずは股関節周囲筋群と膝関節周囲筋群のコンディショニング(ぶっちゃけマッサージ)を十分に行ってから屈曲練習を行う必要があります。
麻痺側の下肢の屈伸運動の練習を効果的に行って、下肢の運動ができるようになるためのリハビリ方法としては以下のような方法があります
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スリングを利用した下肢の除重力状態での屈伸運動
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スリングとEMS(電気刺激)を利用した下肢屈伸運動のファシリテーション
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スリングと振動セラピーを併用した、下肢の体性感覚を刺激した屈伸運動のファシリテーション
などが挙げられます。
スリングを利用した下肢の除重力状態での屈伸運動
スリングとEMS(電気刺激)を利用した下肢屈伸運動のファシリテーション
スリングと振動セラピーを併用した、下肢の体性感覚を刺激した屈伸運動のファシリテーション
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リハビリ方法
比較的簡単にできる立位での歩行練習方法をご紹介しておきます。
よろしければお試しください。
麻痺側のつま先を蹴り返しながら健側の足に体重を乗せる運動!
⑴ 手すりにつかまって立ちます。 このとき手すりより少し後ろに立つようにします。
(手すりにつかまって少し後ろに立ちます)
⑵ 健側の足を一歩前に出します(一歩は小さめに出してください)
(健側の足を一歩前に出します)
⑶ 後ろに残った麻痺側の爪先で床を蹴るようにして麻痺側の踵を上げてください。
⑷ 麻痺側の踵をゆっくり上げながら麻痺側の爪先に力を入れていきます。
(麻痺側の爪先で地面をしっかり踏みしめて蹴り返し動作を行います
⑸ このあと麻痺側の蹴り返しに合わせて健側の足に体重を移していきます。
( 麻痺側蹴り返し・麻痺側の蹴り返しの後、健側の足にしっかり腰から体重をかける様に意識します)
※ この時になるべく麻痺側の足の爪先にしっかり力を入れて床を蹴る意識を持ってください!
⑹ 最後に体重を元に戻して麻痺側の踵を床につけるようにします
(写真:そのあと踵を戻して足の裏全体に体重をかけるようにします )
⑹ この運動を20回繰り返します。
麻痺側の蹴り返し〜健側の足に体重移動〜麻痺側の足を前に振り出す運動!
⑺ ついで麻痺側を蹴り返して健側に体重を移動したと同時に麻痺側の足を振り出します。
(麻痺側の踵を上げながら健側の腰に体重を移動します)
(麻痺側の膝を曲げながら足を持ち上げます)
(持ち上げた麻痺側の足を一歩前に振り出します)
(麻痺側の足を床につきます)
(最後に麻痺側の足に腰から体重をかけます)
⑻ このときなるべく麻痺側の膝を曲げるようにします。 そして最後は麻痺側の足に体重をかける様に意識します。
⑼ この運動を20回繰り返します。
※ 足首から先の麻痺が強い場合は、この運動は難しいと思いますが、無理のない範囲で繰り返し練習を行ってみてください。
次回は
脳卒中片麻痺の歩行 ③足を地面につく時ドスンドスンと強く押すような歩行パターン
について解説いたします。よろしくお願い申し上げます。
最後までお読みいただきありがとうございます
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注意事項
※ このウェブサイトでご紹介する運動内容などは、皆様を個別に評価して処方されたものではありません。 実際のリハビリの取り組みについては皆様の主治医や担当リハビリ専門職とご相談の上行っていただきますようお願い申し上げます。
脳卒中片麻痺の自主トレテキストを作りました!
まずは第一弾として皆様からご要望の多かった、麻痺側の手を動かせるようにしたいとの声にお応えするために、手のリハビリテキストを作りました。
手の機能を改善させるための、ご自宅の自主トレで世界の最先端リハビリ手法を、手軽に実践する方法を解説しています。
超音波療法や振動セラピー、EMS療法による神経促通など、一般病院ではまず受けられないような、最新のリハビリアプローチが自宅で実行できます。
現在の日本国内で、このレベルの在宅リハビリは他にはないと思います。
そしてこのプログラムは施設での実施にて、すでに結果が認められています。
あとは皆さんの継続力だけですね。
テキストは電子書籍になっており、インフォトップと言う電子書籍の販売ASPからのダウンロードになります。
全180ページに数百点の写真と3D画像などで分かりやすく解説しています。
コピーが容易な電子書籍の性格上、少し受注の管理やコピーガードなどが厳しくなっていますが、安全にご利用いただくためですの、ご容赦くださいね。
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