はじめに
今回から数回にわたって「痛みのケア」についてご紹介したいと思います。
脳卒中リハビリにおいて痛みのケアの重要性を理解してください!
なぜ脳卒中リハビリテーションの中で痛みのケアの話をする必要があるのかと言うと、脳卒中片麻痺の皆さんは、ほとんどが肩や腰や膝に何かしらの痛みを感じておられるからです。
そしてそのほとんどが麻痺による神経障害によるものではなく、単なる関節やその周囲のコンディションの問題によるもので、キチンと対応すれば改善が可能なものだからです。
そしてほとんどの高齢者の方が、足腰が弱って歩けなくなったり、寝たきりになったりする原因は、痛みなのです。
そうなのです、運動しないから筋力が落ちるのではなく、痛くて動けなくなったから運動しなくなったのです。
そうして筋力が衰えてしまうのです。
脳卒中片麻痺の皆さんの場合でも、「だんだん歩行距離が長く歩けなくなってきた」原因は痛みであることが非常に多いのです。
もちろん視床痛のような神経障害が原因の場合もありますが、たとえ視床痛がある場合でも、その痛みの何割かは、関節の障害や筋肉のコリみたいなものであり、痛みの一部はリハビリで軽くすることが可能なのです。
最近の大規模データでの研究で、中高年の多くが肩や腰の痛みに悩んでおり、中高年の体力低下の原因が痛みによる運動回避である可能性が示唆されています。
肩や腰の痛みが皆さんの体力と可能性を奪ってしまうのです。
その痛み治さなければもったいない!
実際に脳卒中片麻痺で寝たきりになっていく原因の多くが痛みによるものですし、歩き方が悪くなる原因も痛みによるものです。
では実際にどのようにして、痛みにより寝たきりになるのか、歩き方が悪くなるのか典型的な例をご紹介しましょう。
腰と肩の痛みから寝たきりになってしまったAさんの場合
Aさんは65歳、午前中に庭で植木に水やりをしていて急に倒れたため、奥さんが救急車を呼んで近くの総合病院に入院しました。
脳出血(右被殻出血)と診断され集中治療室に1週間入院しました。
幸い意識は倒れてから3日目に戻り、その後は順調に一般病棟から回復期リハビリ病棟に移ってリハビリが始まりました。
左手足が麻痺していて動かずに、始めは座っているのもバランスが取れなくて大変だったのですが、だんだんと手足が動き出してきて、立ち上がったり一本杖(T字杖)で歩くことも出来るようになりました。
少しづつ手足が動き始めて来ていることに勇気付けられ、リハビリにも意欲的に取り組み、「もしかしてこれはかなり良くなってしまうかも」「元どおりの身体に近いところまで治るかも」と期待し始めた頃に、主治医の先生から「もうこれ以上の麻痺の改善は困難ですので退院してください」と無慈悲にも宣言されてしまいます。
でもまだ自分の願っているような良い歩き方は出来ないし、左手もほとんど使えません。
あなたは少し不安で寂しい気持ちがします。
頼りにしていた医療スタッフからも見捨てられた様な気持ちになるかもしれません。
そしてご自宅に戻ってくるのですが、「なんのこれからは自分で頑張って、もっと歩いたり、手を動かしたりして頑張ろう」と前向きに誓います。
Aさんは昔からキチンとした性格で、自分がやろうと決めたことは絶対にやり遂げる自信がありました。
「これからは毎日、出来るだけ家の周りを歩行練習しよう。 そしていつかはもっと遠くのあのデパートまで自分一人で買い物に行ってみせる。」と心に誓い、毎日、ご自宅の周りを何周も回って歩行練習を始めます。
しかし歩行練習を始めて何日か経つと、膝や腰が痛くなってきました。
それでも頑張って歩行練習を続けていましたが、だんだんと長い距離が歩けなくなってきました。
前の日より歩けなくなるのは悔しいので、膝や腰の痛みを我慢して一生懸命歩いていたのですが、そうすると翌日はもっと膝や腰が痛む様になり、とうとう歩行練習が出来なくなってしまいました。
すっかり自信を失ったAさんは家に引きこもる様になってしまいましたが、今度は肩がコリ始めてきました。
歩行練習の時に頑張りすぎたせいか、健康な方の右の肩や手首も痛くなってきています。
そのうち座っていると首筋や背中が重苦しく痛み出してきて、起きてきて居間のソファーに座っても、首筋や頭が痛み出して、すぐにまた横になる様になってしまいました。
だんだん寝たり起きたりの生活になって、体力が落ちてきてしまい、それに伴って気力も衰えてきた様です。
そうしてAさんは日中はほとんど寝て過ごす様になってしまいました。
いかがでしょうか? もちろんこれは作り話ですが、これに似たようなケースは結構多いのです。 書いている私でも書きながら胸が詰まるような切ない話です。
Aさんの何がいけなかったのでしょうか?
先ずはAさんが歩行練習を始めた後に出現した、腰や膝の痛みは脳卒中の症状ではありません。 一般的な中高年の方が無理をするとなる、いわゆる普通の腰痛や膝関節痛なのですが、脳卒中の病み上がりであったAさんは、思った以上に無理が利かない身体になってしまっていたのです。
その無理の利かない病み上がりの身体で、健康な時と同じかそれ以上に無理をして頑張ろうとしてしまったのです。
そして歩行練習が出来なくなった後の頭痛ですが、これは歩行練習で痛めた腰が原因です。 腰が痛いために、椅子やソファーにキチンと座れずに、腰を寝かせるように坐る習慣ができてしまい、そのために背骨や首の周りの筋肉に負担がかかるようになってしまったのです。
場合によっては、杖をついている健側の肩や手首に痛みが出る場合があります。 これも杖を強く突きすぎてしまうなどの原因により、肩関節の周囲の肩甲筋板の炎症や手首の腱鞘炎などを引き起こしてしまうためです。
身体の一箇所に不調が起きると、その影響で身体の他の場所にも不調が起きる場合があります。 これを「カイネティック チェイン」と言います。
そして今度は肩こりとそれに伴う頭痛になってしまい。 頭が重くて起きていられなくなってしまい、寝たり起きたりの状態になってしまいました。 実はこの現象は、多くの高齢者が寝たきりになっていく過程で起きる、身体運動機能の悪循環スパイラルが進行していく状態を分かりやすい事例でご説明したものです。
脳卒中片麻痺と闘う皆さんは、気付いていなくても、多かれ少なかれ、この身体運動機能の悪循環スパイラルと格闘しながら毎日を生活されています。 そして健康な中高年から高齢者の方々にも同様にこの悪循環スパイラルのリスクはあるのです。
おたがい痛みと上手に付き合って、なるべく痛みのない生活をおくりたいものですね。
次回よりこの痛みをどの様に捉えて、どう解決していけば良いのかについてご説明していきたいと思います。
次回は
「痛みのリンクは骨盤と背骨と肩甲骨で起こります」
についてご説明します。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。
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