はじめに
今回はパーキンソン病に対する、肩関節周辺の筋肉のコンディショニングと関節拘縮の予防および改善を目的とした自主トレリハビリテーション方法の解説を行います。
肩関節と肩の周囲の筋肉のコンディショニングのポイント!
パーキンソン病における肩関節と肩の周囲の筋肉のコンディショニングを考える時、肩の果たす2つの機能に注目する必要があります。
一つは純粋な肩関節の機能として腕を動かすための機能であり、もう一つは肩甲骨を中心として、肩と腕を動かすことで姿勢やバランス反応に機能します。
特にパーキンソン病においては、病気の進行に伴い姿勢反射障害などが発生し、それにジストニアなどの筋緊張の異常な高まりが重なることで、背骨の側弯(脊柱側弯)や円背や頸部の傾きなどが起きるため、肩関節と肩の周囲の筋肉のコンディショニングは大変重要なことだと考えます。
つまり肩関節及び肩の周囲の筋肉のコンディショニングには次に示すような、肩の2つの機能を維持していくために欠かすことができないリハビリテーションメニューなのです。
重要な肩のふたつの機能
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腕を上げたりひねったりするための肩関節の機能
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肩甲帯と腕を上げたり下げたり前後に動かすことで姿勢の調節やバランスをとる機能
肩関節と肩の周囲のコアマッスルのコンディショニング!
肩関節と肩周囲の筋肉のコンディショニングで重要なのは、コアマッスルのコンディショニングを中心にアプローチを行うということです。
筋肉にはその機能に応じてアウターマッスルとコアマッスルに分けて考える場合があります。
コアマッスルとは関節の根もと周辺にあって、関節の微細な運動を調節しながら、関節運動のセンサーとしての働きも強く持っている小さな筋肉を指しています。
それに対してアウターマッスルとは、関節を実際に力強く動かすための比較的外側の大きな筋肉を指して言います。
肩関節の周囲のコアマッスル
肩関節周囲のコアマッスルには棘上筋、棘下筋、大円筋、小円筋、肩甲下筋などがあります。
肩(肩甲骨)の周囲のコアマッスル
肩甲骨周囲のコアマッスルには肩甲挙筋、大小菱形筋、小胸筋、前鋸筋などがあります。
肩関節・肩の周囲のアウターマッスル
肩関節・肩の周囲のアウターマッスルには大胸筋、僧帽筋、広背筋、三角筋などがあります。
肩関節の筋肉に対するマッサージ
まずはこれらの肩関節のコアマッスルに対してマッサージを行います。 マッサージは一般に市販されている小型のバイブレーターを使用してコアマッスルに対するマッサージを行います。
リスク
特になし
必要な機材
市販のマッサージ用バイブレーター
※ あまり複雑なモードの無いシンプルな振動のみのバイブレーターを選んでください。
畳かベッドの上で横になれるスペース
運動時間
30分 ~ 40分
運動内容
棘上筋へのマッサージ
① 安定した肘掛のない椅子にやや浅めに座ります(座面の2/3程度)。 そして骨盤を起こして背筋を伸ばし、両足は肩幅に広げて膝は90° くらいに曲げてしっかりと足の裏を床につくようにして身体を安定させます。
(坐位での棘上筋の位置)
② まずは右側の肩甲骨の棘突起を探し、そのすぐ上にある筋肉にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側棘上筋へのマッサージ)
③ 次いで左側の肩甲骨の棘突起を探し、そのすぐ上にある筋肉にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側棘上筋へのマッサージ)
棘下筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で麻痺側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(肩甲棘の位置)
(右側上の横向き寝と棘下筋の位置)
② まずは右側の肩甲骨の下半分くらいの面に対して、筋肉が盛り上がっていて、押すと痛みを感じる部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。 棘下筋は肩甲棘の下側にある筋ですから、肩甲棘の下を探してください。
(右側棘下筋へのマッサージ)
③ 次いで左側の肩甲骨の下半分くらいの面に対して、筋肉が盛り上がっていて、押すと痛みを感じる部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側棘下筋へのマッサージ)
大円筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で右側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(右側上の横向き寝と大円筋の位置)
② 右側の肩甲骨の外側の縁の下半分辺りで筋肉が盛り上がっている部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側大円筋へのマッサージ)
③ 次いで左側を上にして横向きに寝ます。
(左側上の横向き寝)
④ 左側の肩甲骨の外側の縁の下半分辺りで筋肉が盛り上がっている部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側大円筋へのマッサージ)
小円筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で右側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(右側上の横向き寝と小円筋の位置)
② 右側の肩甲骨と腕の付け根の辺りで筋肉が盛り上がっている部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側小円筋へのマッサージ)
③ 次いで左側を上にして横向きに寝ます。
(左側上の横向き寝と小円筋の位置)
④ 左側の肩甲骨と腕の付け根の辺りで筋肉が盛り上がっている部分にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側小円筋へのマッサージ)
肩甲帯の周囲の筋肉に対するマッサージ
次いではこれらの肩甲帯の周囲のコアマッスルに対してマッサージを行います。 マッサージは一般に市販されている小型のバイブレーターを使用してコアマッスルに対するマッサージを行います。
肩甲挙筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で右側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(右側上の横向き寝と肩甲挙筋の位置)
② まずは右側の肩甲骨の上縁の内側の角のすぐ脇にある筋肉にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側肩甲挙筋へのマッサージ)
③ 次いで左側の肩甲骨の上縁の内側の角のすぐ脇にある筋肉にバイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側肩甲挙筋へのマッサージ)
大・小菱形筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で右側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(右側上の横向き寝と大・小菱形筋の位置)
② まずは右側の肩甲骨の内側の縁から背骨のちょうど中間点辺りの少し上に、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側大・小菱形筋へのマッサージ)
③ 次いで左側の肩甲骨の内側の縁から背骨のちょうど中間点辺りの少し上に、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側大・小菱形筋へのマッサージ)
小胸筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上に仰向けに寝て、膝をまっすぐに伸ばします。
(仰向き寝と右側小胸筋の位置)
② まずは右側の鎖骨の真ん中辺りから指4本分くらい下の辺り(鎖骨の真ん中と乳首を結んだ線の真ん中あたり)に、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
( 右側小胸筋へのマッサージ)
③ 次いで左側の鎖骨の真ん中辺りから指4本分くらい下の辺り(鎖骨の真ん中と乳首を結んだ線の真ん中あたり)に、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
( 左側小胸筋へのマッサージ)
前鋸筋へのマッサージ
① 畳かベッドの上で麻痺側を上にして横になります。 両膝を揃えて曲げるようにして、背骨が捻られないように気をつけます。
(右側上の横向き寝と前鋸筋の位置)
② まずは麻痺側の脇の下から手のひら一枚分くらい下の辺りに、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(右側前鋸筋へのマッサージ)
③ 次いで左側を上にして横向きに寝ます。
(左側上の横向き寝と前鋸筋の位置)
④ 左側の脇の下から手のひら一枚分くらい下の辺りに、バイブレーターを当てて3分間そのまま動かさずにマッサージを続けます。
(左側前鋸筋へのマッサージ)
スリングを使った肩の運動方法
坐位で左右の腕の振りと肩甲骨の運動をリズミカルに行う練習方法
リスク
五十肩や腰痛症のある方は痛みの悪化に気をつけてください。 痛みが出た場合は運動を中止して専門家に相談してください。
必要な機材
中型~大型犬用のお散歩用リード(2本)
運動時間
10分 ~ 15分
スリングの設置と設定
① 部屋の鴨居などに L字型のフックを 60 cm 間隔で2個並べてつけてください。 そこから中型~大型犬用のお散歩用リードを垂らして、持ち手側の輪を下になるようにします。
(長さを調節する場合はリードをループ状にします)
(犬用のお散歩用リードを垂らす)
② 垂らしたリードの中間で少し後ろに椅子を置きます。
③ 椅子にやや浅めに腰掛けて背筋をキチンと伸ばします。 そして先ず右側の手首をリードの腕輪に通し、リードの紐を手首側に回してリードをつかむようにします。 同じように左側の手首もリードの腕輪に通してリードの紐をつかみます。
(右側の手首をリードの腕輪に通します)
(右側のリードを手首側に回して)
(右側の手でリードをつかみます)
(左側の手首もリードに通し)
(左側の手でリードをつかみます)
※ これで運動の準備ができました!
運動開始
④ 上半身を肩甲骨から捻るようにして左右の腕を交互に前後に振るようにして運動します
(先ずは左側の腕を肩から前に突き出すと同時に右側の腕を肩から後ろに引くようにします)
(次は反対に右側の腕を肩から前に突き出すと同時に左側の腕を肩から後ろに引くようにします)
※ この運動を力まずにリズムに乗って「いちに、いちに」と交互に繰り返します。
⑤ この運動を10分程度行います。 運動はなるべく毎日おこなって身体に動きを染み込ませてくださいね。 なるべくスリングの反動を利用して、リラックスした状態で力まずに運動を行うように注意してください。
これでパーキンソン病の肩の筋肉と関節のコンディショニングは完了です。
次回は
「パーキンソン病における腰部の筋肉と関節のコンディショニング」
についてご説明します。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。