脳卒中リハビリ

脳卒中の高次脳機能 記憶力を回復するためのリハビリテーション方法について!

脳卒中の高次脳機能 記憶力を回復するためのリハビリテーション方法について!

 

はじめに

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脳卒中の発症後に物覚えが悪くなったり、記憶が混乱したりすることがありますね。

脳の記憶に関する機能は、海馬と呼ばれる神経核を中心に行われていますが、海馬だけでなく大脳皮質の側頭葉や前頭葉なども広く関わって、記憶を形成しています。

ですから脳卒中においても障害される部位によって、記憶の障害も様々に違ってきます。

またそれに対するリハビリテーション方法も異なります。

今回は一般的にはあまり馴染みがないと思いますが、記憶力を回復するためのリハビリテーション方法について解説したいと思います。

また海馬はヒトの成体(大人)の脳で最初にニューロンの新生が発見された場所でもあります。

この脳卒中の麻痺の回復とも関連が深く、その他の疾患との関連も研究されている、海馬でのニューロン新生と記憶力の関係についても少し解説してみたいと思います。

 

海馬を中心とした記憶の仕組みについて

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記憶とは!

記憶とは広い意味で「経験に伴う影響の残存」と定義できます。

私たちの脳には、日頃の生活で積み重ねられていく、過去の思い出や、生きていくために必要な知識などの貴重な記憶を、『内側側頭葉』と呼ばれる「海馬とその周辺皮質」に蓄える仕組みがあります。

また記憶は ⑴ 宣言的記憶 と ⑵ 非宣言的記憶 に分けられます。

まずはこの辺りをキチンと整理してみましょう。

 

宣言的記憶と非宣言的記憶とは!

まず『宣言的記憶』とは「思い出した内容を言葉に表すことができるタイプの記憶」と定義されます。

例えば「あなたは初恋の相手を覚えていますか?」

相手の名前や顔やスタイルを思い出せますか?

またその相手との甘酸っぱい体験や言葉のやりとりなども思い出されていませんか?

これらの記憶は全て言葉に表して説明することが出来る記憶です。

これを『宣言的記憶』と呼びます。

またこの『宣言的記憶』は ⑴ 意味記憶 と ⑵ エピソード記憶 の2つのサブカテゴリーに分けられていて、それぞれに関係する神経回路が違います。

これに対して、初恋の相手を思い出して胸がドキドキしたりキュンと締め付けられる感じがするのは宣言記憶ではありません。

このように思い出が言葉を中心とした感覚情報ではなく、動作や呼吸や心拍数などの変化、内分泌の変化などで現れる場合は、これを『非宣言的記憶』と呼びます。

 

海馬を中心とした内側側頭葉は宣言的記憶機能のコア領域

先ほどご紹介した『宣言的記憶』は「海馬を中心とした内側側頭葉」で記憶されます。

 

この海馬と内側側頭葉の構造について少しご説明しておきます

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上の図を見てください。

この図の中で紫色で示された靴ベラみたいな形をした神経核が「海馬」です。

海馬の先のオレンジ色のアーモンド型の神経核は「扁桃体」と呼ばれ、感情のコントロールに関わっています。

記憶と感情とはかなり近い関係にあることが、これでもよくわかりますね。

 

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またこの上の図にある紫色の「海馬」の外側の濃い緑色の大脳皮質が「側頭葉」です。

「海馬」は数分から数年単位の記憶を蓄えています。

しかし海馬は記憶をコントロールする中枢になりますので、毎日沢山の記憶情報が入力されて、すぐに容量がいっぱいになってしまいます。

ですから数年以上の長期間の記憶は海馬から側頭葉に移されて長期記憶として蓄えられます。

物忘れの始まったお年寄りが、昨日のことは忘れてしまうのに、何十年も前の昔話をするのは、海馬の性能が低下しているのに、側頭葉に細胞のタンパク質として固定化された記憶は強く保存されているためです。

 

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さらにこの上の図を見ていただくと、「海馬」と「大脳基底核」も近い場所にあることが分かります。

この「大脳基底核」は「視床」と併せて運動コントロール回路を形成しています。

では記憶回路と運動コントロール回路は関係があるのでしょうか?

この「大脳基底核と視床の運動コントロール回路」は動作の半自動化や熟練化に関係しています。

例えば子供の頃に「犬に噛まれた記憶」がある方は、犬を見ると自然と体がすくんで後ずさってしまいます。

過去の記憶によって体が自然と動いてしまいます。

また若い頃に草刈りのバイトをしていて散々電動草刈機で草を刈っていた方が、久しぶりに草刈機を持って見たら、自然と上手に操作できたりしますよね。

どうやら記憶回路と運動コントロール回路も深い関係にあるようです。

また有酸素運動などの運動によって記憶力が良くなることも研究で実証されています。

 

海馬を中心とした記憶を蓄える仕組み

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数分から数時間の記憶

「宣言的記憶」はまずは数分から数時間の短時間の記憶として「海馬」に電気的に蓄えられます。

これは神経細胞の電位として保存されていますから、時間が経つと消えてしまいます。

ちょうどパソコンのRAMメモリーに蓄えられたデータがパソコンの電源を切ると消えてしまうような感じです。

 

数年程度の記憶

次にもう少し重要な数年程度の期間蓄えられる記憶があります。

これはやはり「海馬」に蓄えられますが、今度は電気的な記憶ではありません。

海馬の神経細胞にタンパク質として合成された記憶ですので、電気より長期間蓄えることが可能になります。

 

一生の記憶

数年以上~数十年の記憶になると、それはもう一生の記憶ということになります。

この長期の記憶は、海馬にあった長期用の記憶を、すぐ横の側頭葉に移して記憶として蓄えられます。

海馬は小さな神経回路で、大量の記憶情報が出し入れされるので、すぐに容量が足りなくなってしまいます。

ですからある程度一生ものの記憶に関しては、神経細胞が沢山ある側頭葉に移して記憶として蓄えられます。

この側頭葉に蓄えられた記憶に関しても、それを思い出すのは海馬によって読み出しが行われて思い出されます。

ですから高齢者がなかなか昔の記憶が思い出せないのは、側頭葉に蓄えられている記憶の量が、若い方に比べて大量なため、海馬によって探し出すのが難しいということが考えられています。

 

記憶と前頭葉の関わりについて

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意味記憶とエピソード記憶

先ほど『宣言的記憶』には「意味記憶」と「エピソード記憶」があるとご説明しました。

このことをもう少し詳しく解説したいと思います。

 

意味記憶とは!

意味記憶とは、いわば何かモノに関する記憶です。

例えば

日本の首都は「東京」です。

アメリカの首都は「ワシントン」だけど一番の中心は「ニューヨーク」です。

ベンツはドイツ製の高級車です。

受付のA子さんは美人だけど「彼氏」がいます。

とかの個別の意味を記憶しているのが「意味記憶」になります。

 

エピソード記憶とは!

エピソード記憶とは意味記憶のものに対する意味づけに対して、時間や場所や関係性の情報が加わったものになります。

例えば「とても大きな地震があって多くの家が潰れた」という意味記憶に対して

それが自分の住んでいる近所の話なのか、それとも外国の話なのかで随分と意味合いが違ってきます。

またその地震が昨日起きたばかりなのか、数十年前の話なのかで、これも大きく意味合いが異なりますね。

さらに潰れた家が、自分の家なのか、親戚の家なのか、嫌いなあいつの家なのか、でこれも大きく違います。

エピソード記憶とは、これらの意味記憶に対して時間や場所や関係性の情報が加わった記憶情報になります。

エピソード記憶が重要な一つの例としてこんなのはどうでしょう?

⑴ 受付のA子さんは彼氏がいましたが、最近別れたらしい。

⑵ 受付のA子さんは以前に彼氏と別れたらしいが、最近は彼氏がいます。

この2つではあなたの行動に対する影響は全く異なります。

⑴ のケースでは「それならチャンスがあるかも、誘ってみよう」と思うかもしれませんが、⑵ のケースでデートに誘っても成功率はぐっと低くなってしまいます。

また

⑴ 受付のA子さんは美人です。

⑵ 受付のA子さんは昔は美人でした。

この2つもかなり重要な違いが含まれています。

これらのエピソード記憶を脳がキチンと管理できなくなると、あなたは彼氏のいる女性をデートに誘ったり、昔は美人だったおばあちゃんにちょっかい出してしまったりする、トラブルを抱えることになります。

エピソード記憶・・・・・侮りがたしです!

この意味記憶と時間や場所や関係性の整理をしているのが、前頭前野になります。

ですから脳梗塞などで、前頭前野が障害されると、ひとつひとつの意味記憶はしっかりしていても、前後関係や関連性がメチャクチャになって混乱するタイプの記憶障害が起こる場合があります。

 

 

脳卒中で記憶が障害されるケースとそのリハビリテーション方法

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脳卒中では脳梗塞や脳出血あるいはそれに伴う脳浮腫などにより、様々な脳神経の障害が起こります。

それによって記憶の障害が出ることも出ないこともあります。

また記憶障害が出た場合にも、その症状は様々です。

 

意味記憶の障害

脳卒中や頭部外傷などによって、海馬とその関連領域の機能が障害されると、意味記憶が障害されて、新たなことが覚えられない、順行性健忘になります。

つまり海馬で電気的に記憶が蓄えられなくなっているため、数分程度の短期記憶から数時間程度の記憶ができなくなります。

そうなるとそれらの記憶を数年程度の記憶としてタンパク質合成することもできなくなりますので、ずっとモノが覚えられない状態になってしまいます。

この障害には程度の差があるので、「やや物忘れがある程度」から「人や物が全く覚えられない」レベルまで様々です。

 

意味記憶の障害に対するリハビリテーション

この場合の記憶障害は主に海馬の障害によって、電気的に短期の記憶が保存され、それを中期の記憶に書き換える機能が障害されているために起こっています。

ですからリハビリテーションも海馬の性能を向上させる目的でアプローチを行います。

 

⑴ タロットカードを使った意味記憶のトレーニング

5枚程度のタロットカードを使って、そのカードを覚える練習を行います。

カードの選択は「皇帝」「隠者」「魔術師」「愚か者」「運命の輪」など比較的特徴があって覚えやすいものから始めます。

ただしカードの名前はそれぞれ「王様」「賢者」「魔術師」「ばか」「運命」などと簡単で覚えやすい名前に変更しておくと良いでしょう。

この5枚のカードをはじめは全て表にしておいて、カードの絵と名前を覚えてもらいます。

ついで5枚のカードを裏返しておいて、一枚ずつめくっていき、出たカードの名前を答えてもらいます。

5枚のカードで簡単にできるようになったら、1枚ずつカードを増やしていきます。

 

⑵ アルバムを使った意味記憶のトレーニング

側頭葉に蓄えられた長期記憶(一生もの)を引き出して思い出すのも海馬の役目です。

ですから海馬のリハビリテーションでは、長期記憶を適切に引き出す練習も行う必要があります。

方法としてはご本人の10年くらい前のアルバムを使って行います。

アルバムの中の写真を見ながら、それが何なのかを答えてもらいます。

またその時のエピソードなども会話しながら思い出してもらうように促します。

 

 

エピソード記憶の障害に対するリハビリテーション

エピソード記憶はそれぞれの意味記憶の時間的関係性や、場所の関係性や、それぞれの記憶の相互の関わりが分からなくなる障害です。

ですからそれぞれの記憶の関係性を明確にする練習を行います。

 

⑴ タロットカードを使ったエピソード記憶のトレーニング

はじめは3組6枚のタロットカードを使って行います。

されぞれのカードを「皇帝」と「女帝」、「賢者」と「愚か者」、「死神」と「逆さに吊るされた男」などと意味が関連するものを対にして準備します。

それぞれどのカードが対になっているのか、またその意味を説明して覚えてもらうようにします。

そしてそれぞれの対になったカードを3枚ずつに分けます。

そして片方の3枚を表にして並べ、もう一方を裏返しにしておきます。

裏返しのカードをめくって、例えば「皇帝」が出たら、表向きのカードの中から「女帝」を選んでもらうようにします。

「賢者」を引いたら「愚か者」、「死神」を引いたら「吊るされた男」を選んでもらいます。

この練習を繰り返して行います。

簡単にできるようになってきたら、対になるカードを1セットずつ増やしていきます。

 

⑵ アルバムを使ったエピソード記憶のトレーニング

ご本人のアルバムを年代を大きく離して2冊用意してもらいます。

このアルバムを使って、それぞれランダムに選んだ写真のエピソードとその関連性や時間の関係や場所の違いについてディスカッションしながら、記憶を整理していく作業を行います。

はじめの1対の写真でのディスカッションが終わったら、また次の1対の写真をそれぞれのアルバムから1枚ずつ選択して、再度ディスカッションを繰り返します。

 

 

まとめ

記憶には「宣言的記憶」と「非宣言的記憶」があります。

宣言的記憶は海馬を中心とした内側側頭葉が関与しています。

また宣言的記憶には「意味記憶」と「エピソード記憶」があり、エピソード記憶には前頭前野が関与して、記憶の時間や場所や関係性について整理しています。

また記憶は感情や行動とも深く関係しています。

記憶力を回復するリハビリテーションは「意味記憶」と「エピソード記憶」のどちらが障害されているのかを見極めた上で、それぞれに専用のアプローチを行います。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

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