脳卒中の肩の痛みに対する三角巾の上手な使い方!
はじめに
脳卒中片麻痺になると、麻痺側の肩関節の痛みや肩関節亜脱臼になる場合があります。
この時に肩関節の亜脱臼を予防して、肩の痛みを抑える方法として、三角巾による麻痺側の腕の固定があります。
確かに三角巾による麻痺側の腕の固定によって、亜脱臼の悪化を予防したり、これ以上痛みが強くならないように予防することは大切なことです。
しかしただ単に三角巾で固定を続けてしまうと、麻痺側の腕の動きを抑制してしまい、麻痺の改善のチャンスを奪うだけでなく、腕が強張ってさらに肩の痛みが増すというリスクもあるのです。
脳卒中片麻痺の急性期に麻痺側の腕の筋緊張が低下している状態で、無理な動作を行うと肩関節の亜脱臼になるリスクがありますから、三角巾での固定は必要です。
しかし常に漫然と三角巾での腕の固定を続けてしまうと、麻痺側の腕の運動制限から、腕の筋肉全体の強張りを引き起こし、肩関節などの痛みがかえって増強してしまい、そのためにさらに三角巾が離せなくなるなどの悪循環に陥る場合もあります。
今回は急性期から回復期にかけての、上手な三角巾の使い方と、そこから上手に離脱しながら腕の機能を高めていくやり方について解説したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
脳卒中の急性期に三角巾での腕の固定が必要なケースについて
脳卒中の急性期には、麻痺側の手足の筋肉の緊張が低下してダラダラになります
これは脳卒中の急性期には、運動神経細胞の活動が低下して、麻痺側の手足の筋緊張が維持できなくなるからです。
しかし時間が経つと、運動神経細胞のうちの、興奮性神経細胞(筋緊張を高める細胞)の活動が再開してきます。
それに対して抑制性神経細胞の活動はなかなか高まって来ないため、今度は麻痺側の手足の筋緊張が高まりだしてくるようになります。
この急性期の手足の緊張が低下してダラダラになっている時に、麻痺側の腕に変なストレスがかかると、肩関節を支える筋群が無理やり引き伸ばされてしまい、肩関節が半分抜けかけたような「亜脱臼」の状態になってしまいます。
さらに無理やり引き伸ばされた、肩関節を支える筋群は「回旋筋腱板」と呼ばれる小さいけれども大切な筋肉の集まりです。
これらの「回旋筋腱板」の筋群が障害されて起こる肩の痛みは、一般には「五十肩」と呼ばれるものです。
ですから脳卒中片麻痺の麻痺側の亜脱臼を伴う肩の痛みは、いわば「五十肩」のような痛みということができます。
脳卒中で麻痺している肩に「五十肩」が起きるのですから、これはとても辛い痛みになってしまいます。
ではなぜ脳卒中片麻痺になると、そんなに肩が痛くなるのに、麻痺側の腕に無理なストレスをかけてしまうのでしょう?
それには脳卒中の急性期に特徴的な行動パターンが関係しているのです。
脳卒中の急性期には夢うつつのうちに健側を使って動こうとします
脳卒中になると、多くの方ははじめに意識を失います。
さらに意識が戻っても、しばらくはぼんやりしてはっきりしない状態が続きます。
しかしそれでも人は自ら生きるために起き上がって動こうと努力します。
でもこの時に麻痺側の手足はダラダラに緊張がおちて自分では動かせない状態になっています。
ですからあなたは必然的に健側の手足を使って、健側に向かって寝返りをします。
そして健側に体を寝返らせた時には、麻痺側の腕は横を向いた自分の背中側に取り残されてしまいます。
健康な時には、寝返りをする反動をつけるために、腕は常に体の前に来るように、自然と調節されています。
しかしあなたは脳卒中の急性期でぼんやりしていますから、麻痺側の腕が本来するべき動きができずに、背中側に取り残されていることに、気づきません。
それからまたあなたは横向きから仰向けに戻ります。
その時に麻痺側の腕は体の下敷きにされて変な角度に肩が引っ張られてしまいます。
麻痺側の肩の異常に気がついた時には、すでに肩関節は亜脱臼になり、回旋筋腱板の筋群には痛みが発生しています。
これを予防するためには、あらかじめ麻痺側の腕を体の正面で固定しておくしかありませんね。
そのために三角巾による固定が必要になるのです。
三角巾での上手な腕の固定方法
三角巾による麻痺側の腕の固定は、脳卒中にかかった誰にでもやればいいというものではありません。
何故ならば麻痺側の腕の固定は、麻痺の回復を妨げる可能性があるからです。
ですから急性期の三角巾による麻痺側の腕の固定は、必要最小限に行わなくてはなりません。
ではどんな場合に三角巾による固定が必要になるのでしょうか?
三角巾による麻痺側上肢の固定が必要な場合
⑴ 麻痺側上肢の筋緊張の低下により腕がダラダラな場合
急性期の麻痺側の腕の筋緊張の低下が強く、腕がダラダラに力が抜けてしまている場合には、三角巾によって腕を固定するようにします。
腕の固定については、麻痺側の腕の筋緊張の程度を観察しながら、十分に筋緊張が高まって来るまでは、三角巾での腕の固定を継続するようにします。
⑵ 意識が麻痺側の手に集中できずに手を残したまま動作してしまう場合
たとえある程度は麻痺側の腕の筋緊張が高まっていたとしても、動作に対する集中力が低下していて、寝返り動作や起き上がり動作の時に、麻痺側の腕をきちんと庇えない場合には、三角巾による固定を行います。
特に脳卒中の急性期には、脳自体が浮腫んでいたりするため、ぼんやりしていて注意力が散漫なため、きちんと麻痺側の腕をかばうことができません。
また脳梗塞などで、運動前野などを障害された場合などには、運動失行などにより、手足をきちんと制御できなくなってしまい、おかしな動作をして肩関節にストレスをかける場合があります。
これらの問題は、本人が理解して回避することができない問題点になります。
この場合にはご家族がしっかり観察していて、動作に問題があって、麻痺側の腕にストレスをかけてしまうようでしたら、きちんと三角巾を使用するようにしてあげてください。
よろしくお願いします。
回復期に三角巾から上手に離脱する方法
麻痺側上肢の筋緊張の低下や動作に対する集中力の低下により、麻痺側の肩を保護するために三角巾を使用した場合でも、ずっと三角巾で固定し続けることは良くありません。
三角巾を着け続けることで、麻痺側の腕を動かして麻痺の回復をはかる機会を失ってしまうからです。
また麻痺側の腕をずっと動かさないで固定してしまうことで、かえって肩関節や肘関節の強張りと筋緊張の亢進を引き起こして、腕の痛みが増してしまう場合もあります。
ある程度麻痺側上肢の筋緊張が出てきたら、徐々に三角巾を外すトレーニングを初めていきましょう。
ただしいきなり三角巾をつけなくすることは危険ですので、少しづつ慣らしていく必要があります。
三角巾を外していく手順について
⑴ まずは日中の一定時間を決めて三角巾を外すようにします
この時に一番大切なことは、本人が三角巾を外した状態で、無理な動作を回避して麻痺側の肩を庇えるようになっていることが大切です。
もしくは家族の方などが見守れる状態から始めていきましょう。
三角巾を外す時間は、肩の筋肉の緊張の程度にもよりますが、はじめは1時間程度から始めて、徐々に増やしていきます。
⑵ 次に日中三角巾を外している間に、麻痺側の腕の運動を行うようにします
行う運動は、はじめは椅子に座った姿勢で、麻痺側の腕を体の脇につけた状態で、肘の曲げ伸ばし動作と、肘が曲がるようになったら、肘を曲げた状態から、腕を回すようにして、手を開いたり閉じたりの運動を行います。
ご自分の動かせる範囲で、少しづつ肩や肘を動かしていきましょう。
⑶ 最後に夜間寝ている間に三角巾を外す練習を行います
この練習を行うためには、麻痺側の肩関節の筋緊張が十分に高まっており、肩の痛みも治っていることが必要です。
寝ている間には何が起こるか分かりません。
この寝ている間の三角巾を外す練習は、あまり焦らずにゆっくり行ってください。
夜間に三角巾を外すのは、日中ずっと外せるようになってからで遅くありません。
寝ている間に外すのは、日中に問題なく三角巾を外して生活できるようになってからで問題ないと思います。
よろしくお願いします。
三角巾を外すための運動メニュー
三角巾を早く外せるようになるためには、肩関節の周囲の筋肉のコンディションをキチンと整えることが大切です。
そのために三角巾を外すための練習を合わせて行う、肩関節周囲の筋肉を整える運動方法をご紹介します。
肩の回旋筋腱板へのマッサージ
回旋筋腱板というのは、肩甲骨から上腕骨にかけての ① 棘上筋 ② 棘下筋 ③ 小円筋 ④ 肩甲下筋 の4つの筋肉を言います。
これらの筋肉は、肩関節の運動を調節する働きを持った、肩関節の土台を支え、上腕骨頭を肩関節の関節窩に引き込む働きをしています。
脳卒中片麻痺の肩の痛みは、ほとんどがこの回旋筋腱板の障害であり、これらの筋肉が無理なストレスを受けて、伸ばされると肩関節亜脱臼となります。
ですから肩関節亜脱臼や肩の痛みがある場合には、この回旋筋腱板の筋肉が強張っています。
そして強張ってしまった回旋筋腱板の筋群は、上腕骨頭を肩関節窩に引き込むことができなくなり、痛みを認めるようになります。
ですから三角巾を外すためのアプローチとして、回旋筋腱板のマッサージを行い、筋肉の動きと緊張を取り戻すアプローチを行います。
方法としては、それぞれの① 棘上筋 ② 棘下筋 ③ 小円筋 ④ 肩甲下筋 の4つの筋肉の筋腹の強張りに対して、マッサージ器(バイブレーター)を当てて、それぞれ5分程度づつ筋肉を揉み解します。
肩の回旋筋腱板へのファシリテーション
さらに回旋筋腱板の筋群の活動性を高めるために、これらの① 棘上筋 ② 棘下筋 ③ 小円筋 ④ 肩甲下筋 の4つの筋肉に対するファシリテーションを行います。
方法としては中周波治療器や低周波治療器を使用して、これらの筋群に対するEMS(電気刺激による筋収縮)を行います。
健側の手で麻痺側の手を支えての肩の屈伸運動
さらに肩の運動を行なっていきますが、いきなり麻痺側の腕を自力で動かすと、肩関節周囲の筋群に対して刺激が強すぎます。
ですから健側の手で麻痺側の手をサポートしながら、肩関節の屈伸運動(腕の挙上運動)をベッドに寝た状態で行うようにします。
まとめ
今回は脳卒中片麻痺の麻痺側肩の亜脱臼や痛みに対する三角巾の上手な使用方法について解説しました。
麻痺側肩の筋緊張が低下している場合や、麻痺側の腕をキチンと保護する動作ができない場合には、三角巾を使用して肩関節を守る必要があります。
しかし三角巾を長期間使用することで、麻痺側の腕の運動を阻害して麻痺の回復を妨げたり、関節や筋肉の強張りを増悪させる場合があります。
急性期に必要に応じて三角巾を装着していた場合でも、なるべく速やかに三角巾から卒業できるように、適切なアプローチを行う必要があります。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
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