脳卒中片麻痺の膝の痛みと反張膝の予防リハビリテーション
はじめに
脳卒中の二次的な問題として、長く歩行を続けていて膝の痛みがひどくなる場合があります。
また「反張膝」と呼ばれる、膝が鶏などの足のように、反対側に折れ曲がってきてしまう場合もあります。
このような膝の問題は、脳卒中片麻痺によって、歩き方が悪くなり、それで麻痺側の膝に負担がかかってしまうことが原因です。
これらの膝の問題を解決したり、予防したりする方法はないのでしょうか?
今回は脳卒中片麻痺の膝の問題について解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
脳卒中片麻痺の膝の問題について!
脳卒中片麻痺になると膝の痛みを感じる方が結構おられます。
特に麻痺側の膝の痛みを訴える場合が多いため、脳卒中の麻痺の症状だと考える方もいます。
しかしほとんどのケースでは、脳卒中による神経症状として膝の痛みが出ていることは稀です。
大体の場合、膝の痛みは、脳卒中の急性期に筋肉が強張ってコンディションが悪くなったところに、おかしな歩き方をしてしまうことで、膝の関節やその周囲の膝を動かす筋肉に負担がかかることで、起こります。
ですから脳卒中片麻痺の膝の痛みのほとんどは「筋肉痛」と言ってもおかしくありません。
筋肉痛であれば、適切なマッサージなどでケアすることも可能で、痛みも軽減できます。
ではどんな歩き方で、どんな筋肉に負担がかかって、膝が痛くなるのでしょうか?
脳卒中片麻痺の膝に負担となる歩行パターン
脳卒中片麻痺の膝の痛みは主に歩行時の麻痺側の膝への負担が原因で起きています。
この歩行時の膝への負担を考えるときに、膝ばかりを見ていても答えは見つかりません。
つまりはこの歩行時の麻痺側の膝への過度の負担は、膝の周囲の筋肉の麻痺のみによって起きているわけではないのです。
それどころか、どちらかといえば、膝以外の股関節の運動や、つま先の重心位置、あるいは肩の重心位置などの問題の方がより重要といえます。
膝関節への負担がかかる仕組み
⑴ 麻痺側の股関節で体重が支えられない
麻痺側の膝関節に過度の負担がかかるケースで、私が一番メジャーな物だと感じているのが、麻痺側の股関節の問題です。
脳卒中片麻痺になれば、当然のこと麻痺側の股関節にも問題が起こります。
特に股関節を支える筋肉のうち、中殿筋などの筋肉の機能が低下することで、麻痺側の下肢に体重をかけようとしたときに、股関節が十分に踏ん張れなくなってしまいます。
そうすると麻痺側の足に体重をかけて踏ん張ったときに、麻痺側の股関節を正しい位置に留めることが出来なくなってしまいます。
その結果、歩くときに麻痺側の足をついて体重をかけるたびに「ピョコ、ピョコ」と麻痺側のお尻を斜め後ろに突き出すようにして歩くようになります。
そうすることで股関節の周りの筋肉の力が弱くても、なんとか体重をのせて歩くことが出来るようになります。
しかしこの歩き方では、麻痺側の膝が伸びきってしまい、さらに腰が後ろに引けることで、膝が強く伸ばされる方向に負担がかかります。
それによって徐々に麻痺側の膝の靭帯や関節軟骨に、普通の歩き方ではかからないような負担がかかってしまいます。
⑵ 麻痺側のつま先に体重がのせられない
さらに麻痺側の膝関節に負担をかける原因として、「麻痺側のつま先に体重をのせられない」ことが考えられます。
あなたも経験されていることと思いますが、脳卒中で足が麻痺すると、足の裏の感覚が鈍くなります。
またつま先も動かしづらくなるために、歩くときにつま先に体重を乗せて、しっかり地面を蹴るということが出来なくなります。
そうなると自然と体重を踵に乗せるようになって、重心位置も足の後ろ側に移動します。
つまり麻痺側の膝に対しても、重心線は膝関節のかなり後ろ側を通るようになります。
これによってやはり麻痺側の膝関節の靭帯や関節軟骨に、普通の歩き方ではかからないような負担がかかってしまいます。
⑶ 麻痺側の肩が下がってしまい胸を張れない
脳卒中片麻痺によって、麻痺側の肩や肩甲骨を動かす筋肉も多かれ少なかれ麻痺します。
すると当然、立った姿勢では、腕の重みが肩甲骨にかかってきて、肩甲骨を正しい位置に保つことが難しくなり、麻痺側の肩が下がります。
実は私たちが歩くときには、腰や足だけでなく、肩(肩甲骨)もバランスを保つために、腰と連動して動きます。
一般的には肩は腰とは反対の方向に移動することで、重心のカウンターを行い、バランスを安定させる働きがあります。
これは私たちが歩くときに、右足を前に出すときには、右手を後ろに振りますね。
これは腰と肩が逆方向に動くことで、重心のカウンターバランスを行なって、動作の安定性を高めているからです。
もし手と足を同じに動かしたら、フラフラして安定して歩けませんよね。
ですから脳卒中によって、麻痺側の肩が十分にうごかせなくなり、歩くときの重心のカウンターバランスが出来なくなると、当然歩行のバランスは悪くなります。
歩いているときに重心がフラフラして安定しなくなってしまいますね。
そのために大胆な重心移動が出来なくなります。
このことで麻痺側の腰やつま先への体重移動がさらに障害されていきます。
そしてさらに麻痺側の膝関節への負担が増えてしまうのです。
その時の膝のコンディションの問題点
このように脳卒中片麻痺によって麻痺側の腰や足や肩の運動が障害されることで、麻痺側の膝関節に対する負担が増えていきます。
では当の膝関節にはどんな問題が起きているのでしょうか?
麻痺側の膝関節周囲筋の問題
やはり脳卒中片麻痺によって、麻痺側の膝関節周囲の筋肉も麻痺による機能低下が認められます。
その結果として歩行時の膝関節の安定が低下します。
そして特に麻痺側の下肢に体重を乗せた状態で、膝関節をわずかに曲げたような状態でキープするのが困難になってしまいます。
そのために麻痺側の足に体重をかけたときに、膝を完全に伸ばした状態で、踏ん張るようになります。
これを「骨性支持」と言って、関節を支える筋肉を使わずに、関節の構造と靱帯の強度だけで体重を支えようとするものです。
このときに膝を動かしている筋肉はどうなっているのでしょう。
膝関節の周囲の筋肉は、膝の骨性支持で歩いているときには、常に中途半端に筋肉が緊張した状態で、膝関節を支えようとしています。
本来の正しい歩行動作時の膝関節の周囲の筋肉は、常に膝の動きと連動して、収縮と弛緩を繰り返しています。
しかし骨性支持の場合は、そう言った筋肉のポンプ活動は起こらずに、常に緊張した状態になりますので、筋肉の血流が滞り、強張りやすくなっています。
そして関節と筋肉に常に普通とは違うストレスがかかるために、筋肉のコンディションに悪影響が出やすい状態となります。
そうして膝関節の周囲の筋肉のコンディションが悪化して、強張ることで膝の痛みがひどくなっていきます。
反張膝のリスク
この麻痺側の膝を完全に伸ばした状態で、骨性支持で体重を支えながら歩き続けると、最後はどうなるでしょう。
この歩き方では、膝の周りの筋肉が適切に活動できないまま、膝の靭帯に過度のストレスがかかります。
これによって膝を包んでいる靭帯が徐々に伸びていってしまいます。
そうして靭帯が伸びてしまうことで「反張膝」と呼ばれる、膝の関節がまるで鶏の足のように、反対側に曲がってしまった状態になります。
この「反張膝」の状態で歩行を続けると、さらに膝に負担がかかって、「反張膝」の状態が悪化して進行してしまいます。
その結果として最後は歩くことが難しくなってしまいます。
どんなリハビリテーションが有効か!
これらの脳卒中片麻痺の麻痺側の膝の痛みや「反張膝」をどのように予防したり、改善したりすればいいのでしょうか?
それには以下のようなリハビリテーション方法をお勧めします。
⑴ 麻痺側の股関節の体重支持の機能を高める
脳卒中片麻痺の歩行時の麻痺側の膝に負担がかかる原因として、一番大きな原因は麻痺側の股関節が体重を支えきれずに、後ろに引けてしまい、膝関節を過度に伸ばす方向で負担がかかることが挙げられます。
これに対する解決策としては、麻痺側の股関節に対して体重支持の機能を高めるようなアプローチを行うことが有効になります。
特に立位で手すりなどにつかまった状態で、麻痺側の下肢への体重移動練習を、股関節と膝関節の位置に注意しながら行うなどの練習がとても効果的です。
⑵ 立位での麻痺側のつま先への体重移動を練習する
立った状態での麻痺側のつま先への体重移動の練習も膝関節への負担を軽くするためには、とても効果的です。
何故ならば、麻痺側のつま先に体重をかけると、自然と指先の筋肉に力が入ります。
それに伴って、反射的に麻痺側の下肢で体重を支えるために、膝関節の周りの筋肉にも力が入るようになります。
これによって自然と膝関節を保護して、膝関節周囲の筋肉を運動させてコンディションを整える効果があります。
⑶ 歩行する時の麻痺側の肩と腰の運動連携を練習する
麻痺側の足を踏み出してから、その足に体重を移動するために、麻痺側の腰を前に出して、足先の上に持ってきます。
その時に姿勢を安定させてフラつかせないために、麻痺側の肩を後ろにやや反らせるようにして、カウンターを当てていきます。
脳卒中による麻痺で、この麻痺側の肩のカウンターバランスが出来なくなってしまうと、立位が不安定になり、麻痺側の膝関節に負担がかかります。
この麻痺側の肩のカウンターバランスの練習を行うことで、麻痺側の足に体重をかけた時の姿勢を安定させることで、麻痺側の膝への負担を軽減していきます。
⑷ 麻痺側膝関節の細かい屈伸運動を練習する
麻痺側の膝関節を微細にコントロールする練習を行います。
方法としては、両足を肩幅に開いて立ち、健側の足をほんのわずか後ろに引きます。
その状態から麻痺側の膝を軽く屈伸するようにして、体を伸び上がるように動かします。
それに合わせて、後ろに引いた健側の踵を軽く浮かせるようにして、麻痺側の足に体重をかけていきます。
この運動を数分間、あまり力まずにゆっくりと行います。
まとめ
今回は脳卒中片麻痺の膝関節に対する負担の原因と、それに伴う痛みと変形に対する、リハビリテーションについて解説しました。
膝関節の痛みや変形の原因は、そのほとんどが歩行時の股関節や肩やつま先の動きが不安定で適切に動かないことです。
つまりは膝関節の機能だけでなく、肩や腰や足先を含めた姿勢の制御、アライメントの問題があるのです。
脳卒中の膝関節の痛みの軽減と変形の予防には、適切な姿勢の制御によるアライメントの適正化が必要になります。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
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