はじめに
私たちの体内には「常在菌」と呼ばれる細菌がたくさん存在しています。
常在菌は、私たちの口の中や、鼻の中、小腸や大腸などの消化管、皮膚、女性の膣の中など、全身に存在します。
常在菌はヒトと共生関係があり、私たちの体に様々な恩恵を与えてくれます。
皮膚の常在菌は、肌の潤いを保持する効果があり、外部からの刺激に対して免疫機能を持っています。
女性の膣内にある常在菌は、感染防御の役割だけでなく、出産時の胎児に対して、胎児の口に母親の膣内にある微生物を受け渡して、胎児の常在菌の元とする大切な役割があります。
要するに赤ちゃんが生まれてくるときに、母親の産道を通ってきますが、そのときに母親の膣内の常在菌を飲み込むことで、自分の体内で育てる「常在菌」の元株を腸内に取り込んでいるのです。
最近の研究により、この腸内に存在する常在菌の種類や数や組み合わせ(フローラ)によって、体に様々な影響があることがわかってきています。
この腸内の常在菌(腸内フローラ)は、ヒトの健康と密接に関係していることがわかっています。
まずは腸内の常在菌の状態により、「老化」「発ガン性」「免疫」「感染」などに大きな影響があります。
または「肥満」「動脈硬化」「糖尿病」「全身アレルギー」「婦人科疾患」との関係も言われています。
また神経疾患の領域では、「脳卒中」「パーキンソン病」「ALS」「ギランバレー症候群」「多発性硬化症」などとの関係が注目されています。
さらに精神疾患の分野では「自閉症スペクトラム障害」「てんかん」「うつ」などとの関係が注目されています。
以前からヒトはミミズのような腔腸動物(消化管が中心な生き物)から進化しており、腸-脳連携によって、腸の状態で脳の状態が決まることが知られていました。
まさに今、腸の状態が健康や病気を左右することが分かってきているのです。
今回は腸内の常在菌による「腸内フローラ」と「動脈硬化」の関係について解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
消化器官と腸内フローラ
ヒトの体には口から始まって肛門までに至る「消化管」があります。
消化管は人体最大の免疫臓器でもあります。
つまり消化管には、口から侵入した病原性微生物は、速やかに破壊して排除する仕組みがあります。
その反面で、食物に含まれる抗原や、共生する腸内細菌に対しては、免疫反応が起こらずに、免疫寛容性を保っています。
この腸内免疫寛容をコントロールすることで、腸内フローラをコントロールして、動脈硬化が予防できる可能性があるのです。
腸内フローラと動脈硬化
ヒトの腸内フローラは、優位になる菌の種類に応じて、次の3タイプに分けられると言われています。
ヒトの腸内フローラの3種類のエンテロタイプ
⑴ タイプⅠ: Bacteroides属が優位
⑵ タイプⅡ: Prevotella属が優位
⑶ タイプⅢ: Ruminococcus属が優位
腸内フローラは、どの菌が多いタイプかで、タイプⅠからタイプⅢまで分けられます。
この中でRuminococcus属が多い、タイプⅢの腸内フローラを持つ方に、動脈硬化が多い傾向があると言われています。
腸内代謝産物による動脈硬化の悪化
最近の研究では、ホスファチジルコリン(PC)という栄養分が、腸内細菌によって代謝されて作られる代謝産物である、トリメチルアミンNオキシド(TMAO)の血液中の濃度が濃いほど、動脈硬化が起こりやすいことが分かってきています。
このホスファチジルコリン(PC)という栄養分は、卵、牛乳、チーズ、海老などに多く含まれています。
TMAOが血中に増えることで、血管の動脈硬化を促進させ、さらには血液を凝固しやすくすることで、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを高めています。
しかしTMAOは、腸内細菌で代謝される以外に、鱈(タラ)などの魚に、はじめから含まれているために、これらの魚を食べた時の動脈硬化に対するリスクがどうなのかが、今後の研究課題となるようです。
腸内フローラの違いによる動脈硬化のリスク
マウスなどの動物実験において、腸内フローラの違いによって、動脈硬化になりやすかったり、なりにくかったりすることが分かってきています。
今後の展望
例えばHelicobacter pylori(ヘリコバクターピロリ)によって、胃ガンや胃潰瘍になりやすいことが分かっています。
これと同様に、腸内に存在して、動脈硬化を悪化させたり、改善させる腸内の常在菌が分かれば、それを腸内で増やす食事方法が分かります。
今後の研究の進行に伴い、脳卒中リハビリテーションを進める上で、脳卒中の再発防止や予防のために、食事療法とニューロリハビリテーションの併用が重要になる時が来る可能性が考えられています。
最後までお読み頂きありがとうございます。