はじめに
今回から小児ニューロリハビリテーション の考え方について、親御さんに理解していただくことを第一の目的として記事を書いてみたいと思います。
記事の内容としては、脳性麻痺などによる運動発達の障害がどうして起きるのか、そしてそれをニューロリハビリテーション でどうやって治していくのか。
なるべく、なるべく簡単に、分かり易く解説していきたいと思います。
第一回目は、お子さんの発達障害がどうして起きるのか?
分かり易く解説していきます。
どうぞよろしくお願いします。
赤ちゃんは生まれてくるときにちょっとだけズッコケます!
脳性麻痺の赤ちゃんは、生まれてくる時に、ちょっとだけズッコケてしまいます。
原因は、早く生まれすぎたことだったり、生まれてくる時に酸素が足りなくなったり、感染症にかかってしまったりと、様々です。
しかしその結果として、脳の神経細胞が少しだけ上手く働かなくなってしまっているのです。
要するに、生まれてくる時に、なんらかの問題が起きて、例えば脳の神経細胞に酸素が届かなくなるなどの問題で、神経細胞が十分に育っていないままだったり、調子が悪くなっていたりするのです。
つまり脳の神経細胞が、準備が整わないままに、赤ちゃんは生まれてきてしまっています。
それが生まれてからの、赤ちゃんの成長、つまりは運動発達がしにくい状況を生み出してしまいます。
脳の神経細胞の活動が弱っているために「身体図式」が育たなくなります
まずこの世に生まれてきた赤ちゃんは、全く何も知りません。
それは自分の体のことについても、何も知らないと思って間違いありません。
赤ちゃんは、自分に手足があることすら、知らないままに、この世に生まれてきます。
ですから健康な赤ちゃんの場合、生まれてから数ヶ月の間に、自分の手足の働きや、体の仕組みについて学習します。
それは大体こんな感じになります。
生まれてすぐの赤ちゃんが手足の働きを学ぶ仕組み
⑴ 赤ちゃんがちょっと力んだ拍子に、赤ちゃんの顔にむかって横からなにか肌色の棒みたいなものが飛び出して、顔に当たりました。
⑵ 赤ちゃんがびっくりしていると、それはまた視界の横に消えていきます。
⑶ 試しに赤ちゃんがもう一度力んで見ると、また肌色の棒が現れます。
⑷ 面白くなって、何度も力んで棒を呼び出していると、今度は反対側からも、棒が飛び出してきました。 そしてそれを目の前でコツコツぶつけると、もっと楽しいと感じます。
これは赤ちゃんの左右の手ですね。
⑸ その左右の手を、目の前で、ぶつけて遊ぶうちに、だんだんと手の形が見えてきます。 なんか手の先の方は、たくさんヒラヒラしたものが生えています。(これは指です)
⑹ 少したつと、赤ちゃんは指先をうまく動かして、お互いの手を握ったり、自分の着ている服の裾を引っ張ったりできるようになります。
⑺ 赤ちゃんは、楽しくなって笑った拍子に、お腹に力を入れると、今度は体の下の方から、二本の棒が飛び出してきます。 わーいたくさんある!
⑻ 体の下の方から飛び出してきた二本の棒(足です)を手で触って遊んでいるうちに、赤ちゃんは自分の足についても学んでいきます。
⑼ 赤ちゃんが、自分の足を高く上げて、顔の上に持ってきて、足を見ながらいじくっていると、バランスを崩して、体が横に傾きます。 そしてその拍子にうつ伏せに寝返ってしまいます。
こうして赤ちゃんは手足の使い方と、寝返りの方法を、誰に教わることもなく、自然に身につけていきます。
この自分の体の形と働きに対する理解を「身体図式」と呼びます
「身体図式」が重要なわけ!
この「身体図式」とは、自分の身体の仕組みと働きに対する、漠然とした主観的なイメージです。
この「身体図式」が赤ちゃんの運動発達に、絶対的に不可欠に必要なモノなのです。
例えば、手を動かすためのリハビリテーションを行ったとします。
しかしこの時に、赤ちゃんの手に対する「身体図式」が育っていなかったら、どんなリハビリテーションを行っても、赤ちゃんは手を動かせるようになりません。
それはどうしてかって?
自分に手が生えていることを理解していなければ、その手を動かすための運動神経に対して、もっと上の意思決定レベルの神経から、「手を動かしなさい」という命令が出されないからです。
手を動かす命令を、その手の筋肉に直接出す運動神経に対して、はなから命令が出されないのです。
命令が出されなければ、運動神経の活動能力自体も成長することはありません。
たとえば、両手は動かせるけれども、両足は全く動かせない子供がいます。
これは両足の運動神経が麻痺しているのではありません。
寝たままで、天井しか見ていない、その赤ちゃんは、生まれてから一度も自分の足を、しっかりと見たことがないのです。
ですから自分に足が生えていることが、理解できていないので、足を動かすということ自体が、理解できなのです。
生えていない手足を動かすことは、どんなことがあってもできませんよね。
ですからまずは、赤ちゃんに自分には左右にそれぞれ、手と足が生えているということを、しっかりと理解してもらわなくてはなりません。
脳性麻痺の赤ちゃんが「身体図式」を上手に育てられないわけ!
しかし脳性麻痺の赤ちゃんは、この自分の身体に対する「身体図式」を上手に育てることが出来ません。
なぜなら、まずは脳の神経細胞の働きが弱っているために、上手に手足を動かすことが難しいので、手足に対する認識が育ちにくいのです。
また仮に手足を動かせたとしても、手足の感覚神経や、視覚神経も働きが弱っているために、少しくらい手足を動かせたとしても、それだけでは「身体図式」が育たないのです。
なぜなら「身体図式」は、運動神経だけでなく、手足の感覚神経や、視覚神経など、とてもたくさんの種類の神経が、連携して働くことで作られているからです。
ですから脳性麻痺の赤ちゃんに、この「身体図式」を育てようとすると、かなり強引かつ強力なニューロリハビリテーション の神経アプローチを行う必要があるのです。
「身体図式」が育っていないとどんな問題が起きるのか?
ここでもう少し「身体図式」をわかりやすく解説してみたいと思います。
ひとつの例として、あなたが柿の木の下に立っている風景を思い浮かべてください。
あなたが柿の木を見上げると、枝に柿の実がなっています。
あなたは、その柿の実を見ただけで、手が届くかどうか、だいたい分かります。
これが「身体図式」による、自分の身体の理解です。
あなたは自分の身長と、手の長さを合わせて、どのくらいの高さに手が届くか、もう知っているのです。
柿の実に手が届かないと分かったあなたは、次に足元を探して、木の棒を拾います。
この棒で、柿の実を、ひっぱたいて落とそうという戦略です。
ここであなたは、どの位の長さの棒であれば、柿の実に届くか、あらかじめ分かっています。
それも「身体図式」です。
つまりあなたの身体に対する「身体図式」が、手に持った棒の先にまで伸びていっているのです。
この「身体図式」が手に持った棒の先に伸びることが、とても大切なのです。
つまり「身体図式」が、手の指先から、持っている道具の先にまで伸びることで、私たちは物を持って、操作することができるからです。
私たちが、お箸でご飯を食べている時、私たちの「身体図式」は、指先から、お箸の先に延長されて働いています。
そうなることで、私たちはお箸を、まるで自分の手の指のように操作して、美味しくご飯がいただけるのです。
手に触ろうとすると慌てて引っ込める赤ちゃん
手の特に指先に触ろうとすると、慌てて手を引っ込めて触らせてくれない赤ちゃんがいます。
これはその赤ちゃんの、「指先の身体図式」が育っていないから起きる現象です。
つまりこの場合の赤ちゃんの、「指先の身体図式」は、何かヒラヒラした、まるでイソギンチャクの触手か金魚のヒレみたいな印象です。
イソギンチャクの触手は、触られると引っ込みますよね。
つまりそういうことです。
よく手の指を、不思議な形に折り重なっているお子さんがおられます。
これも「指先の身体図式」が、金魚のヒレみたいなイメージにしか育っていないのです。
ですからその赤ちゃんの指の表現も、金魚のヒレみたいになっています。
この「指先の身体図式」を、キチンと人の指にまでイメージを育ててやると、赤ちゃんは物を持って、操作することが出来るようになります。
まとめ
脳性麻痺の小児ニューロリハビリテーション で、赤ちゃんの運動発達を促すために、一番重要な最初の関門は、「身体図式」を育てるという課題になります。
まずキチンとして「身体図式」を育てることで、脳の運動神経細胞に対して、手足を動かせるように命令が送られるようになります。
脳の運動神経に命令が送られるようになって、初めて『運動発達』のための神経の練習が始まるのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。