はじめに
脳卒中には、脳の血管がつまる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳内出血」があります。
そのどちらも脳に血液が届かなくなることで、脳の神経細胞が死んでしまいます。
その結果として、左右いづれか片側の手足が麻痺する「片麻痺」が起こります。
この片麻痺は、脳卒中の症状ではなく、脳卒中が治った後に残る後遺障害ですから、完全に治って、もと通りに動けるようになることはありません。
しかしだからと言って、麻痺があるままで諦めるわけにはいきませんから、少しでも良くなるようにリハビリテーション を行います。
しかしこれまでの脳卒中リハビリテーションは、麻痺を治すことよりも、麻痺をまぬがれた反対側の手足を上手に使って、日常生活を自立させることに重点がおかれていました。
それは20世紀の脳科学においては、脳卒中によって死んでしまった、脳の神経細胞は「二度と再生しない」と考えられていたからです。
なのでこれまでは、いくら脳卒中のリハビリテーションを頑張って行なっても、片麻痺が良くなることは、これっぽっちも無いと考えられていたのです。
なのでこれまでの脳卒中リハビリテーションは、「日常生活動作練習型リハビリテーション」とよばれるスタイルになっていました。
しかし20世紀の終わり、ほぼ21世紀にさしかかったタイミングで、北欧の研究チームが、「脳の神経細胞が再生する可能性があること」を証明しました。
その研究をきっかけに脳卒中でも、脳の神経細胞の再生を考えた治療が考えられるようになってきました。
その中で脳卒中リハビリテーションも、「日常生活動作練習型」から、脳の神経細胞の再生を促す「ニューロリハビリテーション(神経リハビリテーション)」が行われるようになってきつつあります。
しかし現在の「回復期リハビリテーション病院」での脳卒中リハビリテーションでは、前時代的な「日常生活練習型」の脳卒中リハビリテーションを行う傾向は続いています。
なぜならば現在の「回復期リハビリテーション病院」の入院期間は、ほぼ3ヶ月程度となっており、そんな短い期間では、どう頑張っても脳の神経細胞を再生することは不可能だからです。
それよりも確実に自宅での生活動作を自立させて、確実に自宅への退院を進めることが、医療システムからも、医療経済の観点からも求められているのです。
なので現状では、脳卒中ニューロリハビリテーションを受けるには、「回復期リハビリテーション病院」を退院したのち、在宅でのサービスを探す必要があります。
でもそれってそんなに簡単ではありませんよね。
なのでこのサイトでは、ご自分で脳卒中ニューロリハビリの方法論を勉強して、自主トレとしてニューロリハビリを行うことをお勧めしているのです。
しかしなかなか理論が難しいため、とっつきにくくて、自分では無理だと考えておられる方が多いように感じます。
なので今回から、しばらくの間、試験的になるべく簡単に脳卒中ニューロリハビリテーションの理論を解説する「究極に簡単な脳卒中ニューロリハビリ」のコース解説にチャレンジしてみたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
脳の運動神経単位とは?
あなたが自分の手足を動かす時には、脳の運動神経が手足の筋肉に命令を出しています。
実際には、手足の関節を動かすための筋肉に、運動神経から命令を出しています。
たとえば肘の関節を曲げる運動は、肘を曲げる筋肉に、運動神経から命令を出します。
この時に、命令を出す運動神経は、1つだけではなく、いくつかの運動神経が協力して、命令を出しています。
このひとつの動作に対して、協力して命令を出している運動神経のグループを「運動神経単位」と呼びます。
そして実際に動作を行う場合、その動作を命令する「運動神経単位」を構成する、運動神経細胞の数が多いほど、その動作を安定して出来るようになります。
逆に、脳卒中によって、この「運動神経単位」を構成する神経細胞が死んでしまうと、その動作が出来なくなって、片麻痺になります。
ですから脳卒中ニューロリハビリテーションでは、この脳の運動神経の「運動神経単位」を再生するための神経アプローチを行うのです。
その神経細胞の再生のためのアプローチを『運動学習』と呼びます。
『運動学習』とは?
脳卒中によって死んでしまった、脳の運動神経細胞を再生して、「運動神経単位」を増やしてやるには、脳の神経に『運動学習』を行わせます。
では具体的には、この脳の『運動学習』とは、どんな方法でやればいいのでしょう?
脳の運動神経に『運動学習』をさせるには、簡単にいえば、脳の運動神経による「運動制御」を繰り返し行わせることが必要です。
この「運動制御」とは、要するに脳の運動神経から命令を出して、手足になんらかの目的とする動作を行わせることです。
つまりは脳の運動神経が命令して、手足を思いのままに動かすことを「運動制御」と言います。
しかしこの「運動制御」は、初めからうまく出来るわけではありません。
「運動制御」の仕組みとは?
どんな動作でも、それを初めて行う時には、下手くそです。
たとえば、初めて野球のボールを投げた時のことを、考えて見てください。
あなたはグローブを構えている、相手の手元に向かって、ボールを投げてみます。
しかし初めは、あなたの投げたボールは、おそらくは相手のグローブに真っ直ぐには向かわないことでしょう。
ボールは高すぎたり、低すぎたり、右にそれたり、左にそれたりするはずです。
そこであなたは、ボールの投げ方を、少しづつ調節して、なんとかボールを相手のグローブに近づけようとします。
そうして何回も練習するうちに、ダンダンとボールがグローブに近づいていきます。
これがいわゆる『運動学習』です。
「運動制御」の繰り返しが『運動学習』になります
単純な「運動制御」を繰り返すコトで、その動作に関する運動神経の連携であるシナプスが強化されます。
さらにその動作に参加する、運動神経の数も、徐々に増えていきます。
これはつまり「運動神経単位」が増えたことになりますね。
ボールを投げる動作の、運動制御をする「運動神経単位」が増えて、それを繋ぐシナプスが強化されることで、その動作が上手になります。
つまりはそれが『運動学習』となるのです。
脳卒中ニューロリハビリでの『運動学習』
しかし脳卒中リハビリテーションでは、そんなに簡単には、麻痺した手足は動いてはくれません。
脳卒中の片麻痺の場合は、そんなに簡単には、『運動学習』は起こりません。
それはどうしてなのでしょうか?
次回は脳卒中片麻痺の『運動学習』が上手くいかない理由について解説しますね。
どうぞよろしくお願いします。
まとめ
脳の運動神経は、手足の運動を制御するのに、複数の神経細胞が共同して命令を出しています。
その共同する運動神経のグループを「運動神経単位」と呼び、それに共同する運動神経の数が多いほど、その動作は安定します。
脳卒中片麻痺は、この「運動神経単位」に関わる運動神経が死んでしまうことで、手足の運動が出来なくなります。
脳卒中ニューロリハビリでは、この「運動神経単位」を回復するために、『運動学習』を行います。
『運動学習』の具体的な方法は、目的となる動作を行う「運動制御」を繰り返すことで、その動作に関わる「運動神経単位」を増やすことで『運動学習』を進めます。
次回記事
脳卒中ニューロリハビリ簡単解説 ⑵ 脳卒中片麻痺の運動学習!
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