はじめに
あなたは「腸脳相関」という言葉をご存知ですか?
これまではヒトの身体は、脳が命令を下すことで、脳がトップダウン的にコントロールしていると考えられてきました。
しかし近年の研究で、脳と身体の各臓器や脂肪や骨、筋肉などは、お互いに様々なホルモンや神経経路を介して、相互にコントロールしあっていることが分かってきたのです。
そして消化器官である腸と脳の間にも、共通するホルモンやサイトカイン、自律神経系の作用を介して、互いに双方向的に情報のやりとりを行っていることが分かってきました。
たとえばストレスは脳内で処理されたのちに、ホルモンや神経の経路で、そのストレス情報が伝達され、腸管の機能に影響を与えます。
また腸からの様々なシグナルも、これらの経路を逆にたどって脳に伝達されて、脳の神経活動に影響を与えています。
お腹が空くと怒りっぽくなる人がいますけど、あれも腸からの情報で、脳の神経活動が影響を受けているのです。
腸内フローラとストレス反応
腸からの様々なシグナルが、脳の神経活動に影響を与える中で、「腸内フローラ」も、脳の神経活動に影響を与えていることが分かってきています。
私たちに加えられたストレスは、「視床下部ー下垂体ー副腎軸(HPA axis)」と「交感神経系」を活性化させます。
これらの活性化された機能によって、身体の状態をストレスから守って安定させる働きをするのです。
この「視床下部ー下垂体ー副腎軸(HPA axis)」と「交感神経系」によるストレスへの対応能力は、遺伝的な要素だけでなく、生後の環境からの影響も、深く関係しています。
たとえば、幼少期における母性行動の強さと、「視床下部ー下垂体ー副腎軸(HPA axis)」の反応が逆相関することが分かっています。
これはどういう事かというと、乳幼児期に母親から十分なケアを受けた子供は、成長した後にはストレスに強い大人になると言う訳です。
そして生後の環境因子には、腸内フローラも深く関係しています。
まだマウス(ネズミ)による研究段階ですが、腸内を無菌状態にして育てたマウスに比べ、腸内フローラを移植されたマウスは、成長後のストレス耐性が向上しており、また神経の成長も良いことが分かっています。
腸内フローラと行動特性
腸内を無菌状態にしたマウスと、腸内フローラを移植されたマウスのストレスに対する反応をみた実験がありました。
その実験によると、腸内を無菌状態にしたマウスの方が、腸内フローラを移植されたマウスよりも、ストレス行動(イライラと動き回る行動やガラス玉を埋める行動など)が多く観察されています。
つまり腸内に腸内フローラが育っていることで、ストレスに強く、落ち着いた行動ができるようになっているということになります。
腸内フローラで分解される物質と脳の関係について
腸内フローラによって、さまざまな物質が、腸内で分解され、脳に影響を与える物質に転換されます。
ここでは ⑴ 短鎖脂肪酸 と ⑵ トリプトファン についてその働きを解説したいと思います。
⑴ 短鎖脂肪酸
「難消化性の食物繊維」や「オリゴ糖」が、腸内フローラによって分解されると、『短鎖脂肪酸』が作られます。
この短鎖脂肪酸には、さまざまな生理作用が発見されています。
まず短鎖脂肪酸の一種である「酪酸」には、抗うつ作用があることが分かっています。
また脳の神経膠細胞のひとつに「ミクログリア」があります。
この「ミクログリア」は、神経組織の傷害やストレス刺激に反応して活性化し、神経組織の修復や維持を行っています。
つまりは神経細胞のシナプスのつなぎ換えなどをしているのです。
腸内フローラによって作られる短鎖脂肪酸の働きによって、この「ミクログリア」の成熟が促されることが分かってきました。
この「ミクログリア」の働きは、脳性麻痺による小児の運動発達にも、大きな影響を持っていますので、子供の腸内フローラを適切に育てることは、子供の神経発達にも深く関わっていると思われます。
また最近のイスラエル、フランス、ドイツの共同グループの研究で、ミクログリアの成熟とその制御機構を、胎児期から大人まで詳細に検討した結果、子供の脳内の未成熟なミクログリアの細胞が、きちんと成熟したミクログリアに成長するためには、腸内フローラの存在が欠かせないことが分かったのです。
簡単にいうと、幼少期に腸内フローラが足りない子供は、お勉強のできない子供になる可能性が高いということです www
⑵ トリプトファン
トリプトファンは必須アミノ酸のひとつで、トリプトファン からセロトニンが作られます。
セロトニンは、とても大切な神経伝達物質のひとつですね。
このトリプトファンの代謝の経路のひとつとして、腸内フローラによる分解があります。
腸内フローラの活動が不十分で、トリプトファン濃度が高まると、そのトリプトファンがグラム陽性・陰性菌によって分解され、インドールという物質が作られます。
このインドールは、肝臓で代謝されて「インドキシル硫酸」になります。
この「インドキシル硫酸」は尿毒症物質であり、脳の神経系に悪影響を与える可能性があります。(要:今後の研究)
腸内フローラとうつ病
精神疾患への薬物療法が確立する前の1910年、メランコリー親和型うつ病患者に乳酸菌を投与する実験が行われたことがあります。
この時に乳酸菌投与を受けた、うつ病患者18例中、11例が回復(治癒)したそうです。
また近年の研究で、健康なヒトの腸内フローラに比べて、うつ病・うつ状態患者さんの腸内フローラには、明らかな異常があることが分かってきています。
このように腸内フローラは「腸脳相関」を介して、脳の神経活動に大きな影響を与えていることが分かってきています。
まとめ
近年は、腸内フローラと肥満や、腸内フローラと動脈硬化、腸内フローラと精神疾患の関係などについて、さまざまな研究がなされています。
そして腸内フローラの健康が、私たちの健康に、深く関わっていることが明らかになってきています。
かく言う私も、最近は自分自身でも食生活を改め、お酒を完全にやめて、さらには毎日 R-1 を飲むと言う実験を行っています。
そのおかげか、集中力や体力がアップして、最近では毎日このサイトの記事をアップすることができるようになりました。
仕事でかなり疲れていても、記事を書く気力が十分に残っています。
まあ夕食後にお酒を呑んで酔っ払わなくなったから、シラフで時間が余っているだけと言う説もありますけどね。
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