脳性麻痺が治らない麻痺だと勘違いされている理由
本当は、かなりの確率で、「脳性麻痺」の、赤ちゃんの麻痺は、治るのです。
でも、これまでは、正しい脳の機能に対する、理解がなかったため、間違ったリハビリアプローチが、ずっと行われてきたのです。
今回は、みんなが「ウソだろう」と、眉にツバをつけたくなる、脳性麻痺が治る理由について、解説していきます。
脳性麻痺は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中から生まれてくる前後の時期、いわゆる「周産期」に、母体や赤ちゃんに、なんらかの問題が起きることで、脳の神経に障害が起こり麻痺になります。
麻痺にはいくつかの種類があり、両側の手足が麻痺する「四肢麻痺」や両足だけが麻痺する「対麻痺」、体の姿勢制御が上手くできない「アテトーゼ型」などがあります。
これまでは、これらの麻痺が劇的に良くなることはないと考えられてきました。
そして実際の問題として、一生懸命にリハビリを行っても、それほど麻痺が良くなることは、これまではありませんでした。
どうして麻痺が良くならないかというと、それは医師やリハビリのセラピストも、「おそらくは麻痺は治らない」と思い込んでいたからです。
どうして医療の専門家が、そんな風に思い込んでしまっているのかと言うと、それはある偉大な医学者の先生の言葉が原因なのです。
Cajal博士の呪い!
Cajal博士とは20世紀初頭の、スペインの神経解剖学者です。
この Cajal博士は、神経細胞の「シナプス」を発見した先生で、この発見のおかげで、神経の働きに関する研究が飛躍的に進歩したのです。
ですから私たちは、この Cajal博士の方に足を向けて寝ることは出来ません。
しかしこの先生は、晩年にとんでも無い事を遺言みたいに言い遺してしまったのです。
それが医療の世界ではとても有名なこの言葉です。
『一旦破壊された成体の神経細胞は決して再生しない』
つまりこれは、脳の神経細胞が障害されて麻痺になると、その麻痺は一生治らないよと言っているのです。
そのせいで、脳卒中片麻痺などのリハビリテーションは、これまでは麻痺を治すためではなく、残された麻痺していない手足を上手に使って、日常の生活を自立させるための、いわばアイデアを練習する場になっていました。
ですから同じように、脳性麻痺の赤ちゃんのリハビリテーションも、健康な赤ちゃんの運動発達を、なんとか真似して頑張ろうというアプローチになっていたのです。
しかしちょっと待ってください。
Cajal博士は、『成体の神経細胞』って言っていますよね。
この『成体』って言うのは、「大人の」って言う意味ですよね。
Cajal博士は、子供の脳の神経細胞が再生しないなんて、一言も言っていなかったのです。
ですから本当は、子供の脳神経細胞には「再生する」可能性が残されているのです。
つまり「脳性麻痺」の麻痺は治る場合があるのです。
脳性麻痺の赤ちゃんの麻痺が治る理由とは!
確かに21世紀に入って、脳神経細胞が再生することが、研究で次々に明らかにされています。
しかし脳卒中などの、大人の麻痺は、それでも治すのにかなり苦労しますし、効果も限定的です。
でも子供の麻痺である「脳性麻痺」は、場合によっては、目覚ましい麻痺の回復が見られる場合があるのです。
たとえば、手足がわずかにしか動かせなくて、寝たきりの状態で生まれた子供が、神経機能の回復のために、適切なリハビリテーションのアプローチを行うと、グングン動けるようになって、普通に歩けるようになったりします。
どうしてそんな現象が起こるのでしょうか?
それは神経細胞の死滅ではなく発達障害だから!
大人の麻痺の場合、脳卒中などを発症して、麻痺が起きるまでは、その方は、健康に動けていました。
ですから、その手足の麻痺は、脳の運動神経細胞の、障害であることは、疑いがありません。
しかし、小児の「脳性麻痺」の場合、その赤ちゃんは、生まれてから、一度も動いたことが、ないのです。
この場合には、その手足の運動機能の問題が、脳の運動神経細胞の障害による、麻痺であるという、確証はないのです。
つまり、「脳性麻痺」の赤ちゃんは、生まれたときの、様々な問題により、自分の手足の、運動機能の発達を、しそこなったまま、ずっと来てしまった、可能性があるのです。
それは、脳の運動神経系に、大きな問題がないにもかかわらず、自分の手足を動かす、「運動学習」をしそこなったまま、ずっと動けないままに、成長しているという可能性です。
運動麻痺がないのに動けないのは何故か?
どうして、生まれてきた赤ちゃんが、脳の運動神経細胞に、麻痺がないのに、手足を動かすことが、出来なくなってしまうのでしょう?
それを考えるのに、ちょうど良い、見本があります。
昔の、心理学の実験で、生まれたばかりの、健康なサルの赤ちゃんを、首から上だけを、箱の中から出して、首から下の全身を、箱に閉じ込めた状態で、育てる実験がありました。
そうして、育てられたサルの赤ちゃんは、運動神経に何の障害もないにも関わらず、手足を動かすことが、出来なかったのです。
つまり、生まれてから、自分の手足を、目で見て確認しながら、それを実際に、動かす経験が出来なかった、サルの赤ちゃんは、手足を動かすことを学習できなかったのです。
じつは、それとまったく同じことが、生まれたばかりの、「脳性麻痺」の赤ちゃんにも、起こっています。
それは、生まれたばかりの「脳性麻痺」の赤ちゃんが、医療的ケアによって、強いストレスを受けることで、起こります。
生まれたばかりの赤ちゃんは、生きるために、保育器に入れられ、人工呼吸器などを着けられ、様々なケアを施されます。
それが、強いストレスになり、赤ちゃんの手足の筋肉は、いつのまにかカチカチに、こわばってしまいます。
この手足の筋肉のこわばりを、麻痺のせいだと考えている方が、とても多いのですが、じつは、そうではありません。
この手足のこわばりは、適切なマッサージによって、かなり軽減できる場合があるのです。
つまり、神経障害による痙性(筋肉の緊張亢進)ではなく、ストレスによるコリなのです。
ですが、多くの場合において、この手足の筋肉のこわばりは、麻痺による痙性だと考えられ、そのまま放置されます。
はじめから治らないと、諦められているからです。
生まれた時の、医療ケアによるストレスで、手足の筋肉がこわばってしまった、「脳性麻痺」の赤ちゃんは、この時に、首から下を箱に閉じ込められた、サルの赤ちゃんと、まったく同じ状況になってしまいます。
つまり、首から下を、筋肉のこわばりで、上手に動かせないまま、手足の動かし方を、勉強できずに、大人になっていってしまうのです。
身体図式がカギを握っています
もう少し、この件について、分かりやすく、ご説明しますね。
健康な赤ちゃんの場合、生まれてからすぐに、仰向けに寝た状態で、バブバブと、手足を動かして、遊び始めます。
はじめは、ぎこちなく、手足をモジモジさせているだけですが、そのうちに、指をしゃぶったり、両手を合わせたりして、ダンダンと上手に動かせるように、なってきます。
そのうちに、足の指をしゃぶっていて、バランスを崩すついでに、寝返りができたりします。
そうやって遊ぶことで、赤ちゃんは、自分には手足が生えていて、それを自分の意思で、自由に動かすことができる事を、学習して行くのです。
こうして、自分には、体の左右に、手足が2本ずつ、生えていて、それぞれの先には、指が5本ずつ、生えていて、特に手の指は、細かく動かせると、理解していきます。
この自分の身体に対する理解を「身体図式」と呼びます。
この「身体図式」と呼ばれる、自分の身体に対する、理解があることで、私たちは、自分に手足が生えていることを、認識し、それを自由に、動かすことができるのです。
もし「身体図式」が、発達していない場合、自分に手足が生えているという、認識が育たないため、運動神経に問題がなくても、手足を動かすことが、できなくなるのです。
最初に出てきた、「箱詰めのサルの赤ちゃん」は、首から下の手足が、箱の中にあることで、この「身体図式」が育たなかったのです。
脳性麻痺の赤ちゃんは自力では身体図式を育てられません
ここで「脳性麻痺」の赤ちゃんの場合について、もう一度、考えてみましょう。
「脳性麻痺」の赤ちゃんの場合、生まれてすぐの医療ケアのストレスで、手足の筋肉が、カチカチにこわばっています。
そして、脳の運動神経細胞も、障害されてはいないにしても、未成熟である場合が、ほとんどです。
そうすると、健康な赤ちゃんのように、ほうっておいても、勝手に手足で遊びながら、自然に「身体図式」を育てることが、できません。
なぜならば、手足のこわばりと、未熟な運動神経細胞のせいで、自力で手足の遊びが、できないからです。
「脳性麻痺」の赤ちゃんに、「身体図式」を育てて、手足の運動機能を学習させるためには、運動学習のためのサポートを、戦略的に行う必要があるのです。
これまでの小児リハビリテーションでは、この「身体図式」を育てることなく、単に健康な赤ちゃんの、運動発達を模倣させる、運動アプローチのみが、行われてきました。
しかし、泣いて怖がっている赤ちゃんを、無理やりうつ伏せにしても、運動機能は学習されないのです。
運動学習も、学習ですから、効果を出すためには、赤ちゃんが、その目的を(うっすらとでも)認識した上で、意欲を持って取り組まなければなりません。
そして「身体図式」を、キチンと育てることで、赤ちゃんは、その運動や動作の目的を、キチンと認識して、リハビリテーションの目的を、理解することが出来るようになるのです。
脳性麻痺が治る可能性のある赤ちゃんはたくさんいます
繰り返します。
「脳性麻痺」が治る可能性のある赤ちゃんは、たくさんいるのです。
でも、現在では、それが見過ごされています。
最後までお読みいただきありがとうございます。