脳性麻痺のお子さんの麻痺の回復には振動セラピーによる感覚フィードバックが有効です
脳性麻痺のお子さんの手足の運動機能に麻痺があるのは、親御さんもご承知のことと思います。
しかし、この脳性麻痺の手足の麻痺については、① 純粋な運動神経の障害による麻痺と ② 生まれてすぐの運動学習が阻害されたことで運動機能不全になっている場合とがあるのです。
周産期の問題によって、脳の運動神経細胞が死んでしまっている場合、その麻痺の回復は困難なものになります。
でもそれでも完全に難しいという訳ではありません。
しかし、お子さんが生後の種々の問題によって、運動学習の機会が失われたことで、運動学習障害におちいっている場合は、その麻痺(見かけ上は麻痺しているように見えます)の回復は、じつは比較的に簡単なのです。
例えば、生まれた時に身体機能の未発達から、人工呼吸管理などのケアが必要であった場合。
その赤ちゃんは、生まれてすぐに、ものすごいストレス環境に置かれてしまいます。
そして、そのストレスが、赤ちゃんの手足の筋肉を硬くこわばらせてしまいます。
そうなると、その赤ちゃんは、手足がカチカチにこわばっているために、もう自分の手足が動かせるものだと言う認識を持つことすら出来なくなります。
そうして、運動学習の機会を奪われた赤ちゃんは、手足を動かすことを学ばないまま成長することになるのです。
脳性麻痺ニューロリハビリでは、この生後すぐの運動学習の機会を失った脳性麻痺のお子さんに対して、その手足の運動学習を積極的に促すアプローチをすることで、劇的な麻痺の回復を達成できる場合があります。
この脳の運動学習を効果的に進めるためには、手足の筋肉からの「感覚フィードバック」を強化する必要があります。
そして、その感覚フィードバックの強化手段として、簡便な小型のマッサージバイブレーターを使った『振動セラピー』が、とても効果があります。
今回は、ご自宅でママでも簡単にできる、マッサージバイブレーターを使った『振動セラピー』による、効果的な運動学習療法について解説したいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
脳性麻痺のお子さんの運動学習障害の原因とは?
脳性麻痺のお子さんには、手足に麻痺があります。
この手足の麻痺が、どうして起きているのかというと、それには2つのケースがあります。
脳の運動神経細胞が死んでしまった場合
1つ目のケースは、周産期の低酸素や細菌感染によって、脳の運動神経細胞それ自体が死んでしまった場合です。
この脳の神経細胞が死んでしまった場合には、この運動神経細胞を再生させなければならないため、麻痺の回復にはとても困難が伴います。
また麻痺の回復も限定的なものになってしまいます。
脳の運動学習ができなかった場合
2つ目のケースは、手足の運動麻痺の原因は、生後の種々の問題によって、お子さんが手足の動かし方を学ぶ機会を奪われた場合です。
この場合には、脳の運動神経細胞は無事である場合が多いため、後々のアプローチによって麻痺の回復が可能になります。
一般的に健康な赤ちゃんは、生まれてすぐに手足や体(背骨)の動かし方を自己学習していきます。
つまり、赤ちゃんがむずかって力を入れたときに、偶然に腕や足が動く経験をするところから始まって、赤ちゃんは徐々に自分の意思で、手足を動かす方法を学習して行きます。
それは本当にごく自然に、自分の指をしゃぶるなどの行動で行われているために、ご両親の目には、我が子が生まれつき手足を動かすことを知っていたように感じられます。
しかし、じつはこの時に、お子さんは一生懸命に運動学習を進めているのです。
ところが脳性麻痺のお子さんの場合には、生まれてすぐに未成熟な内臓(肺や心臓)などのために、人工呼吸管理などのケアが必要になります。
そのために脳性麻痺のお子さんは、生まれてすぐに、強いストレス環境に晒されることになります。
そのストレスによって、お子さんの手足や背骨の周りの筋肉は、カチカチにこわばって動かせなくなってしまいます。
そのために脳性麻痺のお子さんは、生まれてから最初の数ヶ月間の基礎的な運動学習の機会を失ってしまいます。
または生まれてすぐの段階で、脳の運動神経細胞がまだ未成熟な状態だったため、すぐに手足を動かすことができない場合もあります。
この場合には、後で脳の運動神経細胞が成熟してきて、運動学習を始める準備ができた時には、手足の筋肉は長い間動かしていなかったために、やはりカチカチにこわばってしまっています。
そうして脳性麻痺のお子さんは、生後の運動学習の機会を失ってしまうのです。
そうなると、お子さんは自分の体には手足が生えていて、それを自由に動かせるという概念自体を持たなくなります。
そうして脳の運動神経細胞は無事であるにもかかわらず、見かけ上は運動麻痺を持ったお子さんになってしまいます。
あとから運動学習を進めて麻痺を治す方法はあるの?
ではこの運動学習ができなかったために、見かけ上の麻痺を持ってしまった脳性麻痺のお子さんが、後から運動学習を進めて、麻痺を治すことはできるのでしょうか?
それが出来るんです!
効果的な運動学習には効果的な運動制御練習
運動学習とは、その目的となる動作を、上手に行えるようになるために、その動作に関わる脳の運動神経細胞の数を増やし、その神経細胞をつなぐシナプスを強くすることです。
そのために必要なことは、効果的な運動制御の練習を、繰り返し行うことになります。
ここで運動制御の流れをおさらいしておきたいと思います。
運動制御の流れ
今回は様々な運動制御の中で、もっとも一般的な「最適化フィードバック制御」を例にとって、運動制御の流れについてご説明したいと思います。
- 脳の運動神経から手足の筋肉に対して「運動指令」が出される。
- 手足の筋肉は「運動指令」に従って筋肉を動かして運動を行う。
- 実際にどのくらい運動が行われたかが、筋肉の感覚センサーからの情報として、脳に「感覚フィードバック」される。
- 脳では「運動指令」と「感覚フィードバック」を照合して、運動の誤差を修正し、運動の最適化を行う。
- これを繰り返しながら運動を正確に制御していく
これが一般的な運動制御の流れになります。
運動学習は、この運動制御を繰り返し行うことで、脳の神経細胞に刺激を与え、目的となる動作を行う神経細胞を増やしていきます。
また繰り返し運動を行い、運動制御のパターンを繰り返すことで、その運動に関わる神経細胞同士をつないでいるシナプスの結合を強化して行きます。
これによって運動能力を高めていくのです。
ただし運動制御を行って、運動の最適化を進めるためには、筋肉の線維内の感覚センサーからの「感覚フィードバック」がないと、運動指令と実際の運動の照合ができなくなってしまいます。
ここで運動制御を正確に行うためには、筋肉の感覚センサーからの「感覚フィードバック」が重要であることが分かりますね。
しかし脳性麻痺のお子さんの場合、まずは筋肉がこわばってしまっていて、その筋肉の繊維の中にある「感覚センサー」の働きが弱まってしまっています。
また「感覚フィードバック」を受け取る、脳の神経細胞も未成熟な状態であることが多く、普通の感覚フィードバックでは、脳に強い印象を与えることが難しい場合があります。
そのためには筋肉の「感覚センサー」に、より強い刺激を与えて、「感覚フィードバック」を強化する必要があるのです。
この時に「感覚フィードバック」を強化する手段として『振動セラピー』が効果的なのです。
マッサージバイブレーターを使った振動セラピーの効果
一般的にマッサージバイブレーターは筋肉のコリをほぐすために使われますね。
しかし、このバイブレーターを運動させようとする筋肉に当てて運動を行うことで、筋肉の線維内にある「感覚センサー」に強い刺激を与え、「感覚フィードバック」を強化することが可能になります。
実際にバイブレーターを筋肉の盛り上がった部分に当てて、筋肉に振動を与えながら関節の運動を行ってみると、運動感覚がより鮮明になる感覚が得られます。
運動を行なっている筋肉全体が、バイブレーターによって振動していることで、筋肉の線維内にある感覚センサーがより強い刺激を受けているからです。
実際の運動のやり方について
お子さんと一緒にご自宅での『振動セラピー』のやり方は簡単です。
ようはお子さんが手足を動かそうとするときに、その関節を動かしている筋肉に、バイブレーターで刺激を与えてやれば良いのです。
例えば、足を蹴る動作をするときに、足の裏にバイブレーターを当てると、足全体に振動を与えて、足の感覚フィードバックを強化することができ、運動制御による神経再生の効果が高まります。
また肘の曲げ伸ばしの運動の場合には、二の腕の力こぶの盛り上がり(上腕二頭筋)にバイブレーターを当ててやります。
さらに背中の背骨の両脇にある、背筋の筋肉(最長筋)にバイブレーターを当ててやると、背中の曲げ伸ばしの運動を誘導することができます。
つまりバイブレーターを当てる場所によって、お子さんがどの手足の、どんな運動をするかを、ある程度はことらが誘導することもできるのです。
バイブレーターを当てた時に、どんな運動を行うかは、お子さんによって個性があります。
ですからママとお子さんで、スキンシップの一環として、バイブレーターで遊びながら、運動の促通と神経強化を進めていくといいと思います。
またバイブレーターは、充電式の小型のものが、Amazonなどで2000円~3000円くらいで手に入ります。
体の小さなお子さんに使うものですし、筋肉をほぐし雨目的ではなく、振動を感じさせるだけでいいので、そんなに大きくて強力なものは必要ありません。
安い予算で簡単に始められます。
それに対して、とても良い効果が得られる場合が、たくさんあります。
ぜひ試して見ていただきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。