体性感覚のフィードバックってなに?
体性感覚という聞きなれない言葉が出てきましたね。
体性感覚というのは、皮膚感覚と筋肉や筋肉の腱にある筋紡錘やゴルジ腱器官とよばれるセンサーから得られる手足や体幹の運動や位置に関する深部感覚情報の事を言います。
そしてこの感覚情報は大脳基底核や視床に届けられ、視覚や聴覚などの特殊感覚と統合されて、運動を制御する情報として利用されます。
筋肉のコンディション障害で体性感覚が障害されます!
ひとつの例としては、筋肉が慢性的に緊張して血流障害が起こると、筋線維の中に筋硬結というあずき粒大の強張りが出来てしまい、それが原因でさらなる慢性的な筋肉の緊張が起こり、筋機能不全状態となってしまいます。
この状態では筋紡錘やゴルジ腱器官などの体性感覚のセンサーが上手く働かなくなり、大脳基底核や視床に対して正しい体性感覚のフィードバックが行われなくなります。
その状態ではロンベルグ兆候が陽性となり、「目を開けた状態では真っ直ぐに立っていられても、目を閉じるとフラついて倒れてしまう」という状態になります。
これは体性感覚の障害を視覚により補っているからです。
視覚の情報まで無くなってしまうと、この状態の方はもう立っていられなくなってしまいます。
そうなれば脳卒中特有の緊張した「ドッコイショ ドッコイショ」と足元を見ながらの力んだ歩き方の完成となります。
そしてその緊張した歩き方が、歩行を行うための足腰の筋肉に負担をかけ、それらの筋肉の強張りを生み出してしまい、筋肉のコンディションの悪化が、歩行パターンの悪化を生み、それがさらなる筋肉の強張りを生み出す、悪循環に陥ってしまうことになります。
ここで体性感覚のおさらい!
体性感覚とはどんな感覚なのでしょう。
一般的な視覚や聴覚や味覚・嗅覚などは、それぞれに目、耳、舌、鼻などの専用の感覚センサーがあり、それゆえに特殊感覚と呼ばれています。
しかし体性感覚とは、体表の皮膚から生じる皮膚感覚と筋肉や腱などの深部組織から生じる深部感覚を合わせたものが体性感覚となります。
その中で身体の運動機能をコントロールするために重要な体性感覚を構成しているのは、皮膚感覚の中の触圧覚と、深部感覚と司る筋紡錘とゴルジ腱器官からの情報となります。
まず皮膚感覚の触圧覚のセンサーには振動を感知するセンサーと触覚を感知するセンサーに分かれ、さらにそれぞれ皮膚の表面に近い部分にあるセンサーと皮膚の奥深くにあるセンサーに分かれます。
深部感覚のセンサーには筋紡錘とゴルジ腱器官があります。
筋紡錘は筋肉の中で、筋線維と平行に配置されていて、筋肉が伸ばされたことを検知するセンサーで伸張反射に関与します。
伸張反射とは、居眠りしていて頭がカクンと前に倒れた瞬間に、反射的に首の後ろの筋肉が反応して、頭を元の位置に引き戻そうとする反応が出ますよね。
これが伸張反射です。
さらに筋紡錘は関節がどの様な角度や位置にあるのかといった感覚情報に重要な働きを持っています。
さらにゴルジ腱器官は筋肉と腱の境目と腱の部分にあり、筋繊維とは直列の関係になります。
ゴルジ腱器官は張力受容器で、筋収縮によって発生する張力を検出しています。
これらのセンサーからの情報は視床に届けられ、その後に大脳皮質の体性感覚の中枢である、第一体性感覚野と第二体性感覚野に投射されます。
体性感覚:
⒈ 体表の皮膚から生じる皮膚感覚
⒉ 筋肉や腱などの深部組織から生じる深部感覚
触圧覚(皮膚感覚):
⒈ 皮膚の表層で振動を検知するセンサー(メッセナー小体)
⒉ 皮膚の深層で振動を検知するセンサー(パチニ小体)
⒊ 皮膚の表層で触覚を検知するセンサー(メルケル盤)
⒋ 皮膚の深層で触覚を検知するセンサー(ルフィニ終末)
深部感覚:
⒈ 筋紡錘: 筋肉が伸ばされたことを検知するセンサー、伸張反射と関節の位置感覚に関与。
⒉ ゴルジ腱器官: 張力受容器で、筋収縮によって発生する張力を検出
体性感覚のフィードバック障害の仕組み
急性期の身体状態の悪化と痙性麻痺による筋緊張の亢進
→ 慢性的な筋緊張の継続で筋線維に筋硬結が発生
→ さらなる慢性的な筋肉の強張りにより筋肉のコンディションが悪化
→ 筋紡錘やゴルジ腱器官のセンサー機能が障害
→ 体性感覚の障害を視覚で補う
→ 歩行の安定性とスムースな歩行運動が障害
→ 緊張して強張った歩行パターンが習慣化
→ さらに筋肉の強張りが増悪
→ 身体機能の悪化がさらなる身体機能の悪化を呼び起こす悪循環のスパイラルに陥る
脳卒中では大脳基底核と視床の機能が障害されます!
ここで思い出していただきたいのは、脳出血において最も多いのは、被殻出血と視床出血です。
この被殻というのは大脳基底核を構成する神経核のひとつであり、視床はそのものズバリの大脳基底核と共同して体性感覚から運動をコントロールする中枢です。
また脳梗塞でもラクナ梗塞などは、これらの大脳基底核や視床への血管が詰まることが考えられます。
つまり脳卒中の多くの場合に、この大脳基底核と視床の運動コントロールが多かれ少なかれ障害されている可能性が高いということです。
そしてそこに体性感覚のセンサーである筋紡錘などからの情報が入らなくなったら、到底スムースに歩くことは困難となります。
大脳基底核と視床の運動コントロールがどのように行われるかは、次回以降にご説明いたしますが、これらの神経コントロールの機能を活用してスムースな歩行を行うためには、手足や体幹の筋肉のコンディションを整えて体性感覚のセンサーが正しく作動するようにしておかなくてはなりません。
また次回以降にご説明しますが大脳基底核と視床の運動コントロール機能を正しく作動させるためには、手足の筋肉がスムースに動く状況を作っておく必要もあります。
このためにも手足や体幹の筋肉のコンディションを整えておくことが大切なのです。
今回の体性感覚のフィードバックに関する解説は以上です。 体性感覚のフィードバックを改善するためのリハビリテーション方法は、大脳基底核と視床の機能を整えるためのリハビリテーションと一緒に行います。
次回は
「脳卒中片麻痺の大脳基底核と視床の働きを改善して歩行を良くすること!」
についてご説明します。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。
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