脳卒中片麻痺 起きていると麻痺側の腕が挙がらないのはなぜ?
はじめに
よく脳卒中の患者さんから、寝ていると麻痺側の腕はなんとか挙げられるのに、座っている状態(身体が起きている状態)だと腕が上がらないのは何故かとご質問をいただきます。
今回はこの寝ていると麻痺側の腕が挙がるのに、座っていると腕が挙げられない問題について、その原因とリハビリテーション方法について解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
身体を起こした状態では麻痺側の腕が上がらない問題について!
脳卒中患者さんの良くある訴えに「寝ていると麻痺側の腕をなんとが頭の上の方まで挙げられるんだけど、起きて座っていると胸ぐらいまでした挙がらないし、肘も曲がってしまう」というものがあります。
これはどうしてなのでしょう?
まあ考えれば簡単なことなのですが、寝ている場合は、麻痺側の腕を顔の高さまで挙げられれば、あとは下り坂ですから、腕の重みで自然に頭の方に下がっていきます。
しかし座っている場合には、顔の高さから上に挙げることことが大変なのです。
しかし普段の生活で、顔より高い位置に手を挙げられる様になると、色々と便利ですよね。
なんとか挙げられないものでしょうか。
でもなぜこんなに胸より高く麻痺側の腕を挙げるのは大変なのでしょう?
胸より上に麻痺側の腕が挙げにくい原因について
実は麻痺側の腕を胸より上に上げるのが難しい原因については、いくつかの要素があります。
これからそれぞれの原因(要素)について、少し解説してみたいと思います。
⑴ 肩甲骨と腕の運動のリズムが揃っていない!
腕を挙げるためには、肩の関節だけでなく、肩甲骨が肩関節の動きと連動して、スムースに動く必要があります。
これを専門的には「肩甲上腕リズム」と呼んでいます。
要するに肩関節が動いて腕を持ち上げるだけでなく、その肩関節がある肩甲骨も、胸郭の上を動いて、腕を挙げるための運動を行なっています。
そしてその肩関節の動きと肩甲骨の動きは、キチンとリズミカルに連動していなければなりません。
しかし脳卒中の麻痺によって、この肩関節の動きと肩甲骨の動きが、うまく連動できなくなり、腕を挙げる動作が上手く出来なくなってしまうのです。
腕を動かす神経回路と肩甲骨を動かして姿勢を制御する神経回路の違い
脳卒中片麻痺で肩関節と肩甲骨の動きが連動しなくなる原因の一つに、肩関節を制御して腕を動かす運動神経路(皮質脊髄路)と、肩甲骨を動かして主に姿勢制御を行う運動神経路(網様体脊髄路)が違っていることがあります。
特に腕を動かす運動制御をしている「皮質脊髄路」は脳卒中による影響を受けやすく、腕の動きが麻痺しやすいのに比べ、肩甲骨を動かして姿勢を制御する「網様体脊髄路」は脳卒中による麻痺が出にくい傾向があります。
そのために腕を挙げようとした場合に、肩関節は麻痺して動きにくく、それに対して肩甲骨は動きやすくなっています。
ですからどうしても先に肩をすくめる様な姿勢になってしまいます。
どうでしょう先に肩をすくめてしまった状態から腕が上に挙がるでしょうか?
あなたも健康な側の腕でやってみてください。
まずは先に肩をしっかりすくめて、それから腕を挙げてみましょう。
挙がりませんよね。
要するに肩関節と肩甲骨を一定の割合でそろえながら動かさないと、スムースに腕が挙げられないのです。
これが「肩甲上腕リズム」です。
脳卒中になると、自然と網様体脊髄路系の体幹を中心とした、肩や腰の動きが優位になってしまいます。
ですから歩くときは、腰を使って足を引っ張り挙げて外側にぶん回す「ぶん回し歩行パターン」になりやすく、上肢の運動では「肩をすくめてしまって腕が挙げられない」ということになります。
原因はどちらも「皮質脊髄路」と「網様体脊髄路」の運動制御のバランスが崩れたことが原因です。
⑵ 肩と腕を動かす筋肉が一緒くたに強張ってしまう
脳卒中の片麻痺によって、皮質脊髄路が障害されると、意識的に手を動かすための運動制御の機能が障害されます。
その結果として、腕を動かす筋肉が、それぞれ適切に作動するのではなく、一緒くたに緊張して強張る様になってしまいます。
さらに筋肉が強張り続けると、筋線維のコンディションが悪くなり、筋線維の中にある、「筋紡錘」などの感覚センサーが上手く働かなくなります。
筋肉内の感覚センサーが働かないと、脳がその筋肉に運動を命令しても、実際にその筋肉が動いたのかどうかの結果が、感覚情報として脳に戻らなくなります。
そうなるとさらに脳の運動制御機能が混乱して、腕全体の筋肉に一斉に力んで力を入れてしまう様になります。
この脳の運動野による運動制御が混乱した状態から、脳が適切に落ち着いて、それぞれの筋肉に命令を出せる様に練習していかなくてはなりません。
腕を上げられる様にするためのリハビリ方法
無理に力んで麻痺側の肩をすくめてしまわない様にリハビリ方法を設定します。
今回はテーブルにタオルを置いて、そのタオルを麻痺側の手で前に押しだしながら、上半身をテーブルに伏せる様に倒していくことで、麻痺側の腕全体を頭の上に上げる動作を再現します。
運動方法
⑴ テーブルの正面に向かって椅子にやや浅く座って姿勢をまっすぐにします。
⑵ ついで健側の腕を肘をほぼ直角に曲げて、体の正面に前腕をテーブルに体と平行になる様に置きます。
⑶ ついでテーブルの上の麻痺側の肩の前あたりになる部分に、小さく畳んだタオルを置きます。
⑷ そのタオルの上に、麻痺側の手をなるべく指を開いて力まない様に置きます。
⑸ 麻痺側の手でタオルを前に押す様に滑らせながら、上半身を前に倒していきます。
⑹ この時に健側の腕で体が倒れすぎない様に支えてください。
⑺ 完全に麻痺側の手を前に伸ばしたら、そこでゆっくり5秒ほど数えて動きを止めて置きます。
⑻ 今度はゆっくりと上体を起こしながら、麻痺側の腕で押さえているタオルを手元に引き戻していきます。
⑼ この動作をゆっくり30回程度繰り返します。
まとめ
今回は脳卒中片麻痺で、寝ていると麻痺側の腕が挙げられるのに、起き上がると腕が挙げられなくなるケースについて解説しました。
腕が挙げられなくなる原因としては、能祖中によって、皮質脊髄路が障害されて、肩関節などの運動はしにくくなるのに、網様隊脊髄路は障害されにくいため、肩甲骨の運動はやりやすいため、腕を挙げようとすると先に肩をすくめてしまうために、腕を挙げられなくなります。
また筋肉の緊張が長引いて、筋線維のコンディションが悪化して、筋線維内の感覚センサーが不調になることで、脳の運動野による運動制御が混乱して、適切に腕のそれぞれの筋肉をコントロールできなくなります。
これらの問題を解決するために、肩関節を過剰に使用しない様にしながら、麻痺側の腕の挙上運動を練習していきます。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。